選択的夫婦別姓制度は、夫婦の関係を安定させる ~日本財団18歳意識調査アンケートより~

日本財団は、2025年8月、「選択的夫婦別姓制度」をテーマに73回目の18歳意識調査を実施しました。有識者に印象に残った調査結果についてインタビューを通してお考えをお聞きしていきます。
全体の約半数が「希望する夫婦は別姓を選べるようにすべき」と回答しました。

この質問に「今の制度を維持すべき」または「名字変更後も、旧姓を使える場面を拡大すべき」と回答した人にその理由を尋ねました。
女性の約半数が「旧姓を使える場面を拡大すれば十分に対応できると思う」と回答し、「別姓を選べるようにすべき」と回答しなかった理由として突出しています。

また、「希望する夫婦は別姓を選べるようにすべき」と回答した人にもその理由を尋ねました。
男女とも「家族の形は多様でいいと思う」が最も多く、次いで「選べるほうが時代に合っていると思う」が多く、他の回答を大きく引き離しています。

これらの「夫婦別姓の通称利用」と「家族の形の多様性」の若者の意識について、有識者にお話をお聞きします。

今回は、上智大学法学部/法学研究科法律学専攻の三浦(みうら)まり先生にお話を聞きました。三浦先生は、「さらば、男性政治」(岩波新書2023年)などの著書もあるジェンダーと政治の専門家で、2026年10月に日本政治学会(会員・約1,800人)の初の女性理事長に就任予定です。
今回の調査で、約半数が「希望する夫婦は別姓を選べるようにすべき」と答え、女性では過半数となっています。「名字変更後も、旧姓を使える場面を拡大すべき」と答えた人は2割弱ですが、実態を知るとまた意見が変わるかもしれません。通称使用がどれだけ不便か、あるいは別姓を望む人にとってどれだけ尊厳を傷つけるか、といった想像力は、社会全体でまだあまり共有されていないかもしれないからです。

現在では免許証やマイナンバーカードに旧姓を併記することができますが、通称で銀行口座の開設がすんなりできるわけではありません。

先日ある銀行で口座を開設しようとしましたが、とても大変でした。通称で申し込んだら、「できません。どうしてですか?(意図が)わかりません」という反応が返ってきました。いろいろと説明しましたが、あまり納得してもらえず、最後は仕方がなく、「この名前を見るのが嫌なんです」って言ったら、「ああ、そうなんですね。わかりました」と、ようやく申請書を受け付けてもらえました。

仕事で使っている名前を口座で使えない不利益をあまり理解してもらえないようでしたが、「そこまで言うのなら」ということだったのかもしれません。銀行によって通称が使えるかはまちまちで、断られたところもあります。この銀行は口座を開けただけよかったともいえます。口座開設で通称利用を希望する人が、実はまだあまりいないのかもしれないと感じました。

それから、一般社団法人の法人登記では、戸籍名しか使えません。対外的には通称しか使わないので、正式な登記上の名称と社会的に認知されている名称にズレが生じてしまっています。

源泉徴収票が通称で発行されても、確定申告は問題なくできます。ただ、国税庁は支払調書に屋号や芸名ではなく氏名(個人名)を書くように指導しているため、支払い元から戸籍名を尋ねられることも多いです。

芸名と旧制使用は異なりますが、通称が芸名扱いされ、実際の利用には限度があるのです。通称で行った仕事の対価が、異なる名前で法的処理がなされることに、強い違和感を覚えますし、通称を使う人だけが、不必要な場面でいちいち婚姻関係を晒されるのも、理不尽です。

結局、マイナンバーカードに通称が記載できも、こうした壁が残っているのです。通称には法的根拠がないですから、当然といえば当然で、選択的夫婦別姓以外にこの問題の解決方法はないといえます。

特に、海外では苦労します。日本の通称というのは海外ではまったく通じません。パスポートでは戸籍名の後にスペースなしの(カッコ)で旧姓を入れることはできます。ただ、カッコはアルファベットではなく、記号なので、コンピューターなどに入力するときにはじかれることがあります。

スペースを入れて通称を記載すれば「ミドルネーム」として処理されるのでしょうが、カッコなのでそうは認識されない。さらに、カッコの前にスペースがないので、理論的には「戸籍名(旧姓)」が名前の一部を構成しているように見える。カッコだったとしてもスペースがあれば、戸籍名だけを入力するという処理になるでしょうが、カッコ含めて1つの名前として認識した場合に、カッコを入力できない仕様になっていると、操作する人が戸惑うことになります。

なぜパスポートの記載がこうなっているのか、つまり日本では夫婦別姓が認められていないことを説明し、そして、対処法としてどの名前を登録するのがいいのかを伝えなくてはなりません。結果的に、海外で通称を使うことはかなり難しいのが現実です。

それから、海外の大学院に推薦書を書くとき、最後にプラットフォーム上でリーガルネームを打ち込むことを求められることが多く、これにも困っています。学生の推薦状は、当然「三浦まり」で書くのですが、それをアップロードすると、最後にリーガルネームをタイプすることを求められます。リーガルネームを書いたら、推薦書に書いた名前とは異なるわけです。

私の場合は、パスポートに「戸籍名(通称名)」のダブルネームを記載しているので、それを打ち込んではいますが、もしリーガルネーム(戸籍名)だけでサインしたら、「これは誰?間違った推薦状ではないか?」と疑われるかもしれない。そもそも、学者としても教員としても戸籍名は使っていませんから、それを書かなくてはいけないというだけで、自分の尊厳が踏み躙られる感覚を覚えます。

さらに、戸籍名を書くことで、推薦される学生にとって不利益になるのではないかと心配になります。今のところカッコを使えるプラットフォームが多いので助かっていますが、もしアルファベットしか受け付けない場合は、非常に困ることになります。

今回の調査結果で、女性の過半数が「希望する夫婦は別姓を選べるようにすべき」と答え、「今の制度を維持すべき」または「名字変更後も、旧姓を使える場面を拡大すべき」と回答した人(36.1パーセト)のうち、通称利用の拡大で「十分に対応できる」と回答した女性が多かったですが、通称利用の限界を知れば、回答が変わってくるのではないかと思います。

夫婦別姓を望む人もいれば、同姓を望む人もいる。あるいは、仕事上は旧姓を使い、家族関係や地域社会では家の氏を名乗るダブルネームを望む人もいます。再婚の場合にどの名字を使いたいかは、事情によってさまざまでしょう。名前はその人のアンデンティティに関わることですから、本人が選べるようにすることが人権の観点から必要です。

他方、他人にとっての名前は識別情報です。同じ人物であることを識別するには、同じ名前がいい。通称利用は、この観点から広がってきました。しかし、法的根拠のないままの拡大には限界があります。同一人物なのかの識別を難しくさせることは、本来は望ましくありません。

人権の保障と識別情報の信頼性という全く違う観点を混同せずに議論を深める必要がありますが、ここに家族制度の維持という別の論点が加わることで、議論が一層複雑になっています。

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