現在、詐欺の認知件数は増加傾向にあり、SNS、AIなどの広まりによりその手口は進化している。現代型詐欺への対処法を、心理学者の西田公昭氏が解説する。
(中央公論2026年8月号より抜粋)
詐欺の形態は多様化しています。「ニセ警察詐欺」や「オレオレ詐欺」の他にも、例えば税金等を還付するといった名目でATMを操作させる「還付金詐欺」、実在する金融機関等のニセサイトに誘導してパスワード等を盗み出す「フィッシング詐欺」、架空の投資話を持ちかける「SNS型投資詐欺」などがあります。
電話やインターネットを通じて行われるこれらの詐欺を総称して「特殊詐欺」といいますが、これは警察の定義による名称です。しかし、非対面のコミュニケーションは私たちにとってもはや日常。特殊という言葉を使って表現するほど、これらの詐欺は縁遠いものではないのです。手口の多様化、オンライン化の進展によって、詐欺はより身近で一般的な存在になったと捉えたほうがいいでしょう。
詐欺の認知件数は年々増加傾向にあり、警察庁の発表によれば2025年には過去最多の2万7832件、被害金額は2022年から増加に転じ1423億円にものぼっています。特に被害額の上昇率はすさまじく、この5年で5倍になりました。
主に高齢者をターゲットにしたオレオレ詐欺や、その他の非対面による詐欺が急増しています。これほど非対面の詐欺が増え続けているのは、スマートフォンをはじめとする通信機器やサービスが広く普及したことに加え、先のコロナ禍でオンラインのコミュニケーションが一般化したことも挙げられます。
犯罪グループにとって、これほど都合のいいツールはありません。スマートフォンだけで実行できるし、相手が機器やサービスの扱いに慣れていない場合が多いので、対面より騙しやすい。犯罪グループ内の関係性も希薄なままでいい。場所を選ばないので海外からの犯行も可能で、逃亡も比較的容易。いわゆる「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」はその典型です。
逆に警察から見れば、こうした新手の詐欺はやっかいです。地域を選ばないので、管轄を超えた広域の捜査が必要。グループの規模や実態も掴みにくい。ITやAIの専門知識も求められます。また指示役が海外にいると、外国の警察やインターポール(国際刑事警察機構)にも協力を仰がなければならない。つまり対応が後手に回りやすいわけです。
先ほど挙げた詐欺の認知件数も、氷山の一角に過ぎません。実害はこの6〜10倍に達していると思います。なぜなら、被害に遭っても届け出ない方が多いのです。私が実態調査のために協力をお願いしても、断られることが少なくありません。被害者の方の多くは、「恥ずかしい」という思いが強く、「思い出したくもない」と口を閉ざすのです。
ちなみに、誰にも相談できず、一人で抱え込んでいる人は二次被害・三次被害に遭いやすいと言われています。犯罪グループは「この人は成功しやすい」と分かると、立て続けに狙うからです。こういうケースも含めれば、事態がいかに深刻か分かると思います。