「なぜ、あんな“悪い人”を弁護するのか」。凶悪事件が報じられるたび、弁護人に対してこのような非難の声が向けられることがある。逮捕と書類送検はなにが違う?果たして、弁護人は「犯罪者の味方」であり、社会正義に反する存在なのだろうか。
刑事裁判において、弁護人は国家権力である検察官と対峙し、被疑者・被告人の権利を守るという重要な役割を担う。それは、たとえ被疑者が罪を犯したことが明白と思える事件であっても変わらない。弁護人が存在しなければ、国家による一方的な断罪が行われ、冤罪を生む危険性が高まるからである。
本記事では、「悪い人」を守ると見なされがちな「刑事弁護人」について、その裏側にある、法制度上の不可欠な機能と、彼らが直面する葛藤を解き明かす。刑事裁判の仕組みと、そこで弁護人が果たす真の役割とは何か。(本文:野田隼人(弁護士、龍谷大学法学部非常勤講師))
※本記事は野田隼人・堀田周吾 著「事件・裁判報道の『深層』を読む技術」(現代人文社)より一部抜粋・構成しています。
弁護士の仕事は大きく分けて民事事件と刑事事件の2つがあります。
民事事件では、個人や企業同士の争いを解決するのが主な仕事です。契約違反で損害賠償を求めたり、離婚の際の財産分与を決めたりするのが典型例です。一方、刑事事件では、罪を犯したとされる人(被疑者・被告人)を弁護するのが仕事です。
弁護士が、刑事事件において被疑者等を弁護する役割を果たしている場合、その弁護士を刑事弁護人あるいは弁護人と呼びます。向かい合うことになる検事が、刑事裁判で捜査・訴追の役割を果たしている場合、その検事は検察官と呼ばれます。
警察が捜査を行い、検察官が起訴するかどうかを判断し、裁判所で審理が行われて有罪か無罪かを決める。この過程で、被疑者等の権利と手続の適正を守るように働くのが弁護人の役割です。
憲法37条では、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。」と定められており、弁護人をつける権利は憲法で保障されています。また、単につけられるだけでは意味がありませんから、この条文は弁護人が被告人のために活動することも保障していると理解されています。
弁護人は、刑事手続において、被疑者等の「味方」として活動します。しかし、これは単に被疑者等の言い分をそのまま無条件に受け入れるということではありません。弁護人のスタンスはいくつかの原理的立場に分類されますが、それぞれの信じる法的な観点から最善の弁護を尽くすことが求められます。