〈「法律がなければぶっ殺してやる」10歳少年に殺意を向ける中年男性も⋯“平和に暮らしたいだけ”のクルド人親子を襲った『邪悪な日本人』〉 から続く【写真】この記事の写真を見る(2枚)「あのおじさんがやってきて、ナイフでぼくを刺し殺したんだ」
日本人男性から襲われた10歳の少年は心に深い傷を負い、外出もできない状態に。それでも家族は引っ越すことすら許されない。差別と制度に追い詰められたクルド人親子の“その後”を追う。ジャーナリスト・池尾伸一の新刊『 仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的 』(講談社)より、一部を抜粋・編集してお届けする。(全2回の2回目/ 最初から読む )
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8月28日のベルザンと男のやりとりが示すように、次男のロランがその男に遭遇するのはこれが初めてではなかった。その1ヵ月半前の7月13日のことだ。7月3日に参議院選挙が公示され約10日経った時点。川口市内のあちこちで、「日本人ファースト」を掲げる参政党や「違法外国人ゼロ」を掲げる自民党の候補者らの街宣が本格化していたころだった。
ロランは同じ公園で、長兄で小6のアザド、小1の弟のバホスやいとこの子どもたちとかくれんぼをして遊んでいた。すると近くの集合住宅のほうから男が近づいてきた。
「お前らなんか早く国に帰れ。早く強制送還されちゃえよ」。声を荒らげて近づいてきた。
男はまず肘で長兄のアザドを強く突いた。
さらに近くにいたロランの頭を手でつかみ、地面に押し倒した。ロランの顔は地面にこすりつけられ、唇からは血が流れ出した。
「だれか助けてください! 警察を呼んで」
ロランたちが大声で叫ぶと、男は走って逃げ出した。
近所の人が出てきた。子どもたちは50メートルほど離れた大通りにある交番に駆け込んだ。警察官がいないため備え付けの電話で、被害を訴えた。
間もなくパトカーがサイレンを鳴らして到着し、警官が降りてきた。だが男は立ち去った後だった。警察は子どもたちから事情を聞いたが、本格的な捜査はしなかった。「あの時もっと捜査してくれるよう頼めばよかった」。ベルザンは悔やむ。
公園で涼んでいたベルザン父子の元へ、男が再び姿をみせた8月28日は、ベルザンの知人らの通報で警察官が駆けつけた時、男はまだその場にいた。警察は男性に署への同行を求め、警察署で事情を聞いた。
ベルザンは、男が7月に自分の息子たちにした行為についても、「肘で押した」と暴行をはっきり認めたことを警察に話し、男の言葉を記録した証拠の動画があることも伝えた。父親は「今度こそ男を逮捕してください」と頼んだが、男はその夜には解放された。