元広島、福士投手の生涯ドキュメンタリーに 「玄界灘の落ち葉」、日韓プロ野球で活躍

日韓のプロ野球で名を成し、2005年に54歳の生涯を静かに閉じた在日コリアンの名投手がいた。福士敬章(韓国名・張明夫)さん。二つの国に活躍の場を求めた福士さんの生きざまを、日本に留学経験のある韓国の映画監督、李泳坤さん(32)がドキュメンタリー映画「張明夫、玄界灘の落ち葉」にまとめ、このほど完成した。今年、韓国で開かれる映画祭への出品を目指している。(共同通信=豊田正彦)

 「人の苦しみまで全部撮らないといけない。つらいことばかり。でも自分には、この物語以外は考えられなかった」。1時間38分の力作を手がけた李さんはソウル市内で、製作に費やした約7年間をこう振り返った。

 作品では、栄光と悲哀が交錯する福士さんの人生を、個人の写真や韓国テレビ局の映像などで丹念にたどった。

 植民地時代に朝鮮半島から徴用工として日本に来たという父親のこと。複雑だった家庭環境。広島時代に達成した日本一。韓国プロ野球の三美に移った1983年に、いきなり30勝したこと。韓国球界を去り寂しく日本に戻ったこと…。福士さんの実弟の松原龍夫さん(73)がナレーションを担い、とつとつとした口調で読み上げた。
日本でアニメ制作を学びたいと考えていた李さんだが「絵が下手だったため方向転換した」。子どもの頃から野球に関心があり「最弱といわれた三美で、なぜこの人だけすごかったのか」との思いから、留学した武蔵野美術大(東京都小平市)の卒業制作に福士さんのドキュメンタリー作りを選んだ。2020年3月に卒業した後も取材を続けた。

 登場人物との信頼構築から始め「韓日の間を15回以上は往復した」。巨人や韓国のサムスンなどで投手として活躍した新浦寿夫(韓国名・金日融)さんや、初期の韓国プロ野球をテーマにした著作がある作家の関川夏央さんらから貴重な証言を引き出した。

 タイトルは福士さんの晩年の勤務先で、急死した場所でもある和歌山県内のマージャン店にあった色紙にちなんだ。福士さんの自筆で「落ち葉は秋風を恨まない」と書かれていたという。李さんは「『落ち葉』は韓日の境界線に立った彼自身だと思う」と感慨を込めて語る。

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