被害者に多大な恐怖を抱かせ、社会への衝撃も大きかった――。茨城県の日立市役所前と東海村役場に立て続けに突っ込み、殺人未遂罪などに問われた益子泰(ゆたか)被告(55)に対する判決が14日、水戸地裁で言い渡された。求刑より2年少ない懲役13年。被告は人をはねた際に意識障害を起こしたと主張したが、有賀貞博裁判長は完全責任能力を認め、「無差別に死傷者を生じかねない危険な行為で相当悪質」と断じた。(寺倉岳、伊能新之介)【一覧】一目でわかる…判決のポイント
益子被告はこの日、上下紺色のジャージーに白いマスク姿で証言台の前に立った。「不合理な弁解に終始し、真摯(しんし)な反省の態度も見られない」などと厳しく非難されたが、身じろぎせずに聞いていた。
2023年12月6日昼、同市役所前広場で「障害者週間」に合わせて開催されていたイベント会場に、母を乗せた乗用車で進入。時速を約47キロに加速して男女3人をはねるなどし、重軽傷を負わせた。約30分後には、別の車で約15キロ離れた東海村役場に突っ込み、同日に建造物損壊容疑で県警に逮捕された。
裁判で被告は人をはねた際に意識障害に陥っていたと主張。刑事責任能力の有無が争点となった。14日の判決では、医師が「意識障害を疑うべき所見は認められない」と証言し、事件前後に的確に運転していたことから「意識障害は生じていなかった」と認定。その上で、市役所から走り去った後、同乗の母に「あと何人の死体を積み重ねれば良いんだ」と発言していたと指摘し、「被告に殺人や暴行の故意があったと認められる」とした。
公判では、母への不満を思い知らせ、親族らに責任を負わせて死のうと決意したことが事件の動機になったと明らかにされた。これに対し、有賀裁判長は「動機や経緯は甚だ身勝手かつ短絡的で酌むべき事情も見当たらない」と切り捨てた。
事件は被害者の心にも深い傷を残した。市役所前ではねられた女性(当時44歳)は証人尋問で、事故後は車への恐怖心が消えず、娘も学校に通えなくなったと打ち明けた。障害者イベントが狙われたことには「障害者が生きづらくなり、社会とつながる大切な機会を奪った」とも訴えた。
終始落ち着いた様子で判決を聞いた後、傍聴席や検察官らに目をやりながら法廷を後にした益子被告。控訴の意向について、弁護士は取材に応じなかった。