4回目の犯行に及んだのは、刑務所を出てわずか8日後だった。2026年2月8日午後6時ごろ、広島市内の店舗や住宅が立ち並ぶ一角。立花勇作(65)=仮名=は出所後に身を寄せている更生保護施設に向かって歩いていた。この日の気温は氷点下。温暖な広島では珍しい大雪だった。足首まで埋まるほど積もった雪を踏みしめながら、ふと思った。「防寒具が欲しい」。吸い込まれるようにコンビニに入った。立花(仮名)が繰り返した窃盗と刑事裁判の流れ所持金は841円。出所時には8千円余りあったが、酒と菓子に消えていた。「万引しよう」。その考えにためらいはなかった。「どうせ盗むなら一番高価な物を」と思い、1998円の手袋を手に取った。防犯カメラの死角に移動し、ポケットに入れた。入店から3分足らずの犯行だった。
店を出た直後に店員に呼び止められ、通報で駆け付けた警察官に逮捕された。更生保護施設まであと5分の距離。翌日には採用面接が控えていた。「なんでやってしまったんだろう」。自分でも分からなかった。
<立花が窃盗容疑で初めて逮捕されたのは2021年。それから約5年の間にさらに3回逮捕され、2回服役した。4回目となった今回の犯行は、常習的に窃盗を繰り返した人に適用される「常習累犯窃盗罪」に問われた。>
なぜ窃盗を繰り返すようになったのか。記者は広島拘置所(広島市中区)にいる立花との面会を重ねた。
「実家は100年以上歴史がある歯科医院だった」
立花は1960年、ある県の歯科医師の長男として生まれた。「親の顔に泥を塗れないと思い、悪いことは何一つできなかった」と幼少期を振り返る。歯科大に進学し、歯科医師の国家試験に合格。だが、治療方針を巡って院長の父親とぶつかり、家を飛び出した。
その後知人のつてを頼り、関東の歯科医院で職を得た。結婚し、長男も生まれた。「この頃が一番楽しかった」と遠くを見つめる。
暗転したのは2019年。妻から離婚を切り出された。「朝ご飯でみそ汁を作れと怒った。ちょっと大声出しただけなのに」。同時期に歯科医院を解雇された。59歳で全国を転々とする生活が始まった。
当初は愛知県内の歯科医院で働いたが、給料が不満で3カ月でやめた。次の千葉県内の歯科医院は不採用となり、生活保護を受けた。ファミレスで寝泊まりし、交流サイト(SNS)で時間をつぶす日々。SNSでつながったトラック運転手と会おうと愛知県へ向かった。そこが分岐点だった。