「ホテルを出て道を渡ったところで、男が私の口のあたりを殴ってきたのです」
そう話すのは産経新聞の前台北支局長でジャーナリストの矢板明夫氏である。7月6日、滞在中の台湾・台中市で、香港籍の男(33)から暴行を受けるという事件が起きた。【写真をみる】「えっ、同一人物なの!?」 やつれたすっぴん姿で裁判所に現れた「中国共産党美人幹部」 ほか
矢板氏が続ける。
「台湾には『春雨文教基金会』という財団があるのですが、ここは与党・民進党支持の若者を育て、将来の幹部を選抜する組織でもあります。私を含め7人の講師を招いて、市内のホテルで講演会が行われることになっていました」
後から分かったことだが、2日に実行犯「廖」と、もう一人の男が台湾に入国。4日前からタイミングをうかがっていたことになる。
「しかし廖は、私の講演日が分からず前日からホテルのコーヒーショップに一日中居座っていたそうです。従業員によると、広東訛りの中国語で講演会のことを何度も聞いていた。もう一人はおそらく指示役。この人物が廖にターゲットである私の情報を教えたのでしょう。自身は捕まらないよう5日に台中から出国しています」
翌日、矢板氏は新幹線で台中に到着。10時20分から1時間の講演を行う。会場にいたのは試験と面接で選抜されたおおよそ100人の若者。だから、勝手に会場に入り込むことはできない。ホテル内ではカメラに写ることもあって廖は外で待っていた。
「講演後、基金会の方から“一緒にお弁当でも”と誘われたのですが、友人と待ち合わせがあったので丁重に辞退してホテルを出た。そこで襲撃されたのです」
矢板氏は口から出血し、歯科医院で診てもらったところ前歯9本がぐらついていたという。
「廖は私を殴ると、すぐにタクシーに乗って誰かに電話をかけた。そこで運転手が聞いたのは“任務完了!”という言葉だった。押収された携帯には“すぐに台湾を出なさい”という連絡の記録が残っている。このことからも犯行が計画的だったことが分かります。さらに廖はフリーマーケットに紛れ込み、上下黒の服から上が白、下が灰色の服に着替えている。午後4時のプサン行きの飛行機に乗る予定でしたが、台中国際空港の待合室のカメラに映った腕の入れ墨から犯人であることが分かりました。最後に私が顔を確認して逮捕となった。出発8分前のことです」
台湾では外国から入国した人物が、民主活動家やジャーナリストを襲っては国外逃亡する“ヒット&アウェイ”というテロが増えている。加えて中国では、国外であっても民族分裂活動を取り締まる「民族団結進歩促進法」が1日に施行されたばかり。今回の襲撃事件は中国政府が関与しているとの見方もあるという。
「週刊新潮」2026年7月23日号 掲載