日本国旗を傷つける行為に刑罰を科す「日本国旗損壊罪」法は、処罰対象が明確にされないまま成立し、罪に問う行為かどうかは現場の警察官らの判断に委ねられることになる。議員立法として法案を提出した自民党は、芸術や政治的な意見を表明する手段として損壊した場合も処罰対象になり得ると言及。市民同士の監視や、警察への嫌がらせの通報など社会の分断を招く恐れもある。
「刑罰法規として不可欠な明確性を致命的に欠いている。基準の曖昧さは実務上、極めて深刻な混乱と人権侵害をもたらす」。立憲民主党の塩村文夏氏は17日の参院本会議で、国旗損壊罪の処罰対象が不明確として、反対する考えを強調した。
参院の審議で焦点となったのが、芸術や政治的な表現として国旗を損壊する行為が罪に問われるかどうかだ。刑法は、外形上は犯罪の構成要件を満たしているように見えても、正当な理由に基づく行動であれば、違法性を阻却し処罰しないと規定している。例えば、医師による外科手術などがこれに該当する。
法案提出者の塩崎彰久氏(自民)は参院内閣委で、違法性が阻却される事例について「その方法以外で政治的な意見表明ができないような社会的状況にあったかどうか」と答弁。具体的事例は示さなかった。塩村氏は「ほとんどが『他に選択肢があるだろう』と言われ、アウト(違法)になるのではないか」と指摘した。
舞台演劇で国旗を傷つけた場合は罪に問われるのだろうか。自民は「国旗を損壊する等の情景が欠かせない場合」は違法性を阻却するとしたものの、損壊のシーンが「欠かせない」との判断は人によって異なり、やはり明確とは言えない。
曖昧さは、現場で取り締まる警察官の負担になりかねない。警察活動に詳しい東京都立大の星周一郎教授(刑法)は「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案する」との条文を問題視する。
星教授は「法律に評価的要素がかなり入っており、現場の警察官が罪に当たるかどうか、直ちに構成要件を判断するのは極めて難しい。表現の自由に抵触する事案で、身体拘束を伴う逮捕・勾留には特に慎重にならざるを得ないのではないか」とみる。
警察庁の重松弘教刑事局長は16日の参院内閣委で「構成要件に該当するかどうかの判断にあたっては組織的に検討を行うとともに、検察当局とも緊密に連携して対応する」と答弁し、慎重に運用する考えを示した。