SNSなどによって世論が大きなうねりとなって押し寄せてくるいまの時代、企業の「危機対応」は、事業の継続にかかわる重大なポイントになっています。
ある日、突然やってくる“危機”に、企業としてどう向き合えばいいのか。フジテレビ、小林製薬、旧ビッグモーター、旧ジャニーズ事務所……近年の事案を振り返っても、学ぶべきことは多いでしょう。
公認会計士として長年、企業のコンプライアンス・危機管理にかかわってきた大久保和孝さんに、実際の事例をもとに“企業を守る”ための具体的なヒントを解説してもらいます。
【再発防止を「設計」に落とし込む】
プルデンシャル生命保険をめぐる問題の真因は、「インセンティブ設計」「統制・監督」「文化・成功体験」の3層に分解して整理すると見えてきます。そのうえで、具体的に「どう変えるのか」――今回は、プルデンシャル生命問題の検証から見えてきた危機管理の本質を総括したいと思います。
再発防止には、よく陥りがちな落とし穴があります。「コンプライアンス意識を高めます」「倫理教育を徹底します」――不祥事のたびに繰り返されるこの言い回しが、なぜ社会の納得につながらないのか。
それは、再発防止が「理念」や「精神論」にとどまり、「設計」になっていないからです。仕組みを変え、評価を変え、監督を変え、文化を制度で裏打ちする。その具体性こそが、社会に対する説得力になります。順に見ていきましょう。
第一に、「インセンティブ設計」です。
今回の問題では、その背景として、報酬が販売成績に連動する「完全歩合制(フルコミッション)」を基本としていることが営業社員たちの“暴走”を招いた、と指摘されています。しかも、売り上げ以外の評価軸が十分に組み込まれていなかったことが現場に誤ったメッセージを広げる一因となっていたと思われます。
ただし、成果主義そのものが悪いのではなく、その副作用を制御する仕組みが弱かったことが問題でした。だからこそ、再設計の出発点は、報酬制度や評価制度の中に「売り上げ以外の軸」をしっかり組み込むことです。
短期的な営業成績だけでなく、苦情件数、解約率、顧客満足、監査評価、確認プロセスの遵守状況など、いわば継続品質を評価に反映させる。「成果」だけでなく「プロセスの健全性」を評価する仕組みに切り替えることで、「何を売ったか」と同時に「どう売ったか」が問われる構造をつくります。
そして、高業績者ほど監督を強めることが重要です。数字を出す人ほど、顧客との接点も多く、裁量も大きくなります。だからこそ、行動の透明性を高める必要があります。トップ営業を“聖域化”した瞬間、問題はもっとも見えにくい場所で大きくなるからです。
同時に、成績不振者を放置しないこと。収入が急減し、不正の誘惑にさらされやすい局面があるなら、その前提で支援、立て直し、配置転換、場合によっては退出の仕組みまで整えておく必要があります。
不正は、起きてから処分するだけでは遅い。芽が出る前に制度で摘むという発想が不可欠です。