6月30日、国旗損壊罪法案が衆院を通過し、審議の舞台は参院に移った。憲法や刑法の専門家からも表現の自由への懸念や、法案の根拠への疑問の声が上がるなか、政府・与党は今国会での成立を急ぐ。日の丸を焼いて逮捕された父を持つ沖縄県読谷村(よみたんそん)の男性は、表現の萎縮と平和活動への影響を懸念する。【写真】日の丸「国旗損壊罪」制定の動きに「育てていくべきは日の丸を尊重する心」 愛国者団体が反発する理由とは* * *
「全ての人が、支配されず自由に選べる社会にしたいです」
6月24日午前、法案の衆院での審議入りにあわせて市民団体が開催した「『国旗損壊罪』を廃案に! 国会前抗議アクション」でマイクを握った40代のフリーランスの女性が強く訴えた。女性は国旗を損壊しようなどとは考えていない。だが、先の大戦で若者は鉢巻きに日の丸を描き、国のために命を落としていった。個人の思想より国家が重んじられた歴史がくり返されるのではないか――。それが法案に反対する理由だ。
このデモから6日後の30日、法案は衆院本会議で可決された。人通りの多い場所で自ら持参した日本の国旗を引き裂いたり、燃やしたり、切り刻んだりするなどの行為を処罰するのが法案の内容で、対象は「人に著しく不快、嫌悪の情を催させるような方法で公然と国旗を損壊、除去、汚損した者」とし、違反すれば「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」を科す。
かねて高市早苗首相が「持論」としてきたもので、法案を共同提出した日本維新の会の阿部圭史衆院議員は、新法をきっかけに「愛国心も醸成されていくと考えている」と狙いを述べた。
だが、法案を巡っては表現や思想の自由を侵害するおそれがあるとして、専門家からは強い批判や懸念の声が上がっている。
■「不快だから処罰」で熟議の機会失う
憲法学者で武蔵野美術大学教授の志田陽子さんは、「処罰範囲が広すぎるため、複数の憲法上の権利に抵触する可能性がある」と指摘する。
まず、問題となるのが、憲法21条が保障する「表現の自由」への影響だ。また、法案の3条は「表現の自由への配慮」をうたうが、芸術表現を除外する規定はない。与党は「社会通念上、やむを得ない表現なら罰しない場合もある」と答弁するだけで、何が許され何が罰せられるかは条文では示していない。
これまで国内では議員や首長などの公人が「人を不快にさせるような表現は芸術ではない」といった発言をして、実務に影響を及ぼす場面もあったという。新法が成立すれば、社会問題に切り込もうとする「現代芸術」が萎縮するおそれがある。
「表現は、同じ問題意識を持つ人々が互いを知り、連帯する契機にもなります。そうした表現の場が失われれば、多様な意見や問題提起に触れる機会も失われ、市民の『知る権利』にも影響を及ぼす可能性があります」
さらに、取り調べで内心を問われるおそれ(思想、良心の自由=憲法19条)、罪刑法定主義(同31条)、場合によっては請願権(同16条)にも触れると語る。
「民主主義において重要なのは、多少の不快感を伴う表現であっても、その背景や理由を社会全体で議論することです。刑罰によって表現を封じてしまえば、民主主義の基盤となる熟議そのものが損なわれかねません」(志田さん)