SNSなどによって世論が大きなうねりとなって押し寄せてくるいまの時代、企業の「危機対応」は、事業の継続にかかわる重大なポイントになっています。
ある日、突然やってくる“危機”に、企業としてどう向き合えばいいのか。フジテレビ、小林製薬、旧ビッグモーター、旧ジャニーズ事務所……近年の事案を振り返っても、学ぶべきことは多いでしょう。
公認会計士として長年、企業のコンプライアンス・危機管理にかかわってきた大久保和孝さんに、実際の事例をもとに“企業を守る”ための具体的なヒントを解説してもらいます。
【「制度があるのに機能しない」組織の典型】
危機対応は、謝罪や補償、第三者委員会の設置で終わるものではありません。経営者が最後に問われるのは、同じことが起きない仕組みに本当に変えたのかという点です。
プルデンシャル生命の問題は、まさに「制度があるのに機能しない」組織の典型でした。表面だけを見れば、社員・元社員による不適切行為です。しかし、30年以上にわたり、100人を超える社員・元社員による不正が続いてしまったという事実は、個人の倫理だけでは説明がつきません。その背後には、構造的な問題があります。
真因は、大きく3つの層に分解できます。
第一に、インセンティブ設計――成果主義の副作用が放置されていたこと。
第二に、統制・監督――ルールはあったが、運用として回っていなかったこと。
第三に、文化・成功体験――ビジネスモデル神話が改革を阻んでいたこと。
今回は、この3層を一つひとつ診断していきます。
まず見なければならないのは、「インセンティブ設計」です。
今回の問題では、その背景として、報酬が販売成績に連動する「完全歩合制(フルコミッション)」を基本としていることが営業社員たちの“暴走”を招いた、と指摘されています。
しかし、ここで誤解してはいけないのは、成果主義そのものが悪いわけではないということです。成果に報いる仕組みは、企業の成長を支える重要なエンジンです。実際、プルデンシャル生命のライフプランナー制度も、高い営業意欲と顧客との強い関係性を生み、同社の成長を支えてきたはずです。