精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で、逮捕・起訴後に保釈が認められないまま亡くなった元顧問の遺族が、身柄拘束を認めた裁判官の判断は違法だったとして、国に約1億6800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が29日、東京地裁(大須賀寛之裁判長)であった。国側は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
原告は、元顧問・相嶋静夫さん(当時72歳)の遺族。相嶋さんは2020年3月、生物兵器に転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして、社長らとともに外為法違反容疑で逮捕、起訴された。同地裁に対する7回の保釈請求は「証拠隠滅の恐れがある」と却下された。勾留中にがんが見つかり、21年2月に病死。社長らの起訴は、その約5か月後に取り消された。
訴状で遺族側は、計37人の裁判官が逮捕や勾留を決め、保釈を認めない判断に関与したと指摘。「早期に適切な治療を受けて長期間生存する可能性があった。生きる権利を侵害された」などと訴えた。
口頭弁論では相嶋さんの妻(77)が意見陳述に立ち、「夫にはまだ生きていてほしかった。執拗(しつよう)に繰り返された保釈請求却下の理由を裁判官たちにお聞きしたい」と涙ながらに訴えた。国側は今後、具体的な反論を明らかにするという。
閉廷後に記者会見した長男(52)は「このような身柄拘束を二度と繰り返させないことにつながる判断を期待したい」と述べた。
事件では、遺族らが起こした別の国家賠償請求訴訟で、警察や検察の逮捕と起訴を違法とする判決が確定している。
最高裁は、大川原化工機の事件での裁判官の判断について検証を行わない方針を示しており、今崎幸彦長官も5月の記者会見で「裁判官の独立の問題もあり、差し控えたい」と述べた。裁判所が自ら検証する姿勢を示さないなか、今回の訴訟を通じて個々の判断の妥当性が問われる異例の展開となる可能性がある。
裁判官の責任を問うにはハードルもある。最高裁は1982年、国が賠償責任を負うのは「裁判官が違法または不当な目的で裁判をした場合」などの例に限定するとの判決を出した。判例に従えば、意図的に誤った判断をしたなどの事情がなければ責任を問われないことになるが、遺族側は「重大な権利侵害である身柄拘束の裁判に判例を適用すべきではない」と訴える。