阿部元監督辞任で見えた「パワハラという時限爆弾」成果を出すリーダーの盲点 (李怜香 社会保険労務士)

2026年5月、プロ野球・読売ジャイアンツの阿部慎之助元監督が、18歳の長女に対する暴行容疑で現行犯逮捕され、その後釈放されました。その翌日に自ら監督辞任を申し入れ、球団側はこれを受理しています。

球団の顔という立場にある人物が、家族への暴力行為で逮捕・辞任に至ったことは、球界のみならず社会全体に衝撃を与えました(参考:阿部監督辞任 暴力を振るった事実は重い 読売新聞 2026/05/27)。

一方で、阿部元監督の復帰を求めるオンライン署名が、短期間で13万筆を超える規模に達しました。「一度の過ちで全てを失わせるべきではない」という声も上がっています。暴力を理由に辞任に至ったことと、その人物の復帰を願う声が同時に存在するという状況は、現代社会が抱える価値観の揺らぎをよく表しています。

本稿では、この出来事を「スポーツ界のスキャンダル」としてではなく、「組織における労務管理・パワハラ防止にどう活かすか」という視点から、ハラスメント問題にくわしい社労士の視点で整理します。
まず押さえておきたいのは、どれほどプレーヤーとして優秀であっても、また監督として一定の成果を上げていたとしても、部下や家族に対する暴力や威圧的な指導が許されることはありません。

パワハラに傾きやすい人材は、短期的には「結果を出す指導者」と評価されがちですが、長期的には重大な事故を起こすリスクを内包した時限爆弾のような存在です。一度問題が表面化すれば、本人だけでなく組織全体を巻き込んだ深刻なダメージとなります。

パワハラ型マネジメントの本質は、恐怖による支配にあります。「怒鳴られるのが怖いから言われたことだけやる」「叱責されるくらいなら、余計なことは言わない・やらない」という心理が職場を支配していきます。

その結果、部下は萎縮し、意見を言わなくなり、ミスや不正があっても上に上がりにくくなります。組織の意思決定に必要な情報が集まらず、判断の質は確実に低下します。

心理的安全性が損なわれた職場では、優秀な人材ほど早く離れていく傾向があります。「ここでは自分の能力を発揮できない」「理不尽な扱いに耐えるより、別の職場を選びたい」という方向に動くのは自然な流れです。

こうした離職が連鎖すれば、採用・教育コストは膨らみ、現場の負担は増大し、やがてはメンタル不調や長時間労働など、労務管理上の問題として顕在化していきます。パワハラは、加害者と被害者だけの問題ではなく、組織の持続性そのものを脅かす構造的リスクだと位置づけるべきです。

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