人のいるところに酒があり、酒のあるところにはドラマがある。酒との付き合い方を聞けばその人の生き方が見えてくるのではないか。酒場ライターの大竹聡氏がたずねていく。リーゼント刑事にうかがう後編では、かつて担当した傷害事件と酒の因果関係についても語ってくれた。【前後編の後編。前編から読む】【写真を見る】7件の前科があった被疑者を「実験」したことも 秋山さんが語った “酒と犯罪の因果関係”
* * * リーゼント刑事としてテレビ番組に登場した徳島県警の秋山博康さんは、日本でもっとも有名な警察官になった。しかしそれはベテラン刑事になった後のことで、新人の頃は、先輩の技術を盗もうと必死で勉強をする真面目一辺倒の刑事だった。送検した被疑者の起訴が決まった晩には、祝いの宴席で先輩に張り付き、酒をお酌しながら取り調べの奥義を探り出した。
刑事になったばかりの頃は万引きをした小学生の取り調べで嘘をつかれるほど未熟だった秋山さんだが、努力を重ねて殺人事件の被疑者を自白に導けるまでになった。当インタビューの前編では、そこまでの話をじっくりと聞いた。秋山さんは、苦労した時期に、酒の力を借りたと、感慨深く語ってくれた。
さて、ここで話はいったん小休止だ。酒もビールから日本酒に変えることにしよう。頼んだ酒は秋田の「雪の茅舎」。店の女将が一升瓶から桝に入ったグラスに酒を注ぐ。そのときの店内に響く声がいい。
「まけまけ一杯注ぐけんね、よいしょーっ、よいしょーっ、よいしょーっ」
みるみるうちに酒がグラスを満たし、あふれ、桝がそれを受ける。いわゆる「もっきり」だ。ちなみに、「まけまけ」というのは、器一杯にという意味で、土佐では「つるつる」というところだが、徳島では「まけまけ」というらしい。どちらも土地の言葉だが、店の大将が、徳島県出身の秋山さんのために、「まけまけ」と言っているのかもしれない。今度、裏を返しに行ったときに確かめてみようと思う。
それは余談だが、テーブルには、土佐料理の代表格、藁焼きの皿も出ている。カツオ、鶏、ブリ、サーモン、ハランボ(カツオのハラス)を藁の火で炙った、たたき。いかにも土佐っぽい豪快な料理で、日本酒に非常によく合うのだ。もうひと皿は、マダイの韓国風ゴマ油刺し。香りがよく、飲みたい気持ちをそそってくる。いずれも、秋山さんが昵懇にしているこの店の社長のお薦め料理だ。秋田の香り華やかな純米吟醸と土佐の男気あふれる酒肴がマッチする。これが酒の醍醐味だ。