自民党が新総裁に選んだのは、タカ派色が強く、安倍晋三元首相の「後継」を自任する高市早苗前経済安全保障担当相だった。野党に流出した岩盤保守層を奪還し、戦後最長の長期政権を築いた安倍政権への回帰を目指す党内世論の表れだ。初の女性総裁として刷新感も期待され、党再生を託された高市氏。だが、言動や政治姿勢を不安視する見方は党内外にあり、衆参で少数与党の政権運営がさらに厳しくなる可能性をはらんでいる。
「これでまた保守の支持は戻ってくる。安倍さんの時代に戻るよ」。高市氏が総裁に選出された4日、陣営のある幹部は高揚感を隠さなかった。
高市氏は自身を安倍氏の「後継」と位置付ける保守強硬派。伝統的な価値観や国家観を重視し、総裁選では、選択的夫婦別姓制度の導入に慎重姿勢を貫き、外国人による土地取得の規制強化やスパイ防止法の制定を訴えた。「責任ある積極財政への移行」も掲げ、先端技術分野への財政出動や軽油引取税の引き下げも主張した。
高市氏の勝因は、安倍氏の路線継承を掲げ、保守層の支持を取り戻すことへの期待を党員や党所属国会議員から集めたことだ。
自民は7月の参院選で大敗。比例票は1280万票にとどまり、2022年の参院選に比べ3割減だった。党内では、参政党や国民民主党などに保守層が流出したとの見方が支配的で、少数与党転落につながったとみられている。高市氏を支援した閣僚経験者は「今、保守の旗印をしっかり掲げないと参政党に流れた票は帰ってこない」と話す。
党派閥裏金事件などで「解党的出直し」を掲げる中、新総裁が初めて女性となることで刷新感への期待も集めた。高市氏は「立党70周年の自民党で初の女性総裁が誕生すれば大きなインパクトがある」と強調し、女性特有の疾患に対応する総合病院の機能強化などを掲げた。党幹部は「全国の党員に推された総裁で女性初。これはこれで良かった」と話す。
保守層の奪還を期待できる高市氏はもろ刃の剣。タカ派であるがゆえに、言動や政治姿勢が党内外や諸外国とのあつれきを招き、かえって党の弱体化につながりかねない。
高市氏は9月22日の演説で、外国人の犯罪を巡り「警察で通訳の手配が間に合わないから、逮捕しても勾留期限が来て不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と根拠が不確かな主張を展開。総務相在任中の16年には放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法の違反を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。
首相就任後に懸念されるのが靖国神社の参拝だ。昨年の前回総裁選では、首相就任後の参拝を明言。自民ベテランは「中韓との関係を考えると靖国神社問題が必ず課題になる。国会で野党攻勢をはねのけることができるか」と不安視する。党幹部も「あまり挑発的なことはやるべきではない。安全運転に徹してほしい」と要望する。
高市氏は、参政党や日本保守党との連携も否定していない。公明党の斉藤鉄夫代表は4日、総裁選出後の高市氏と東京都内で会談し、歴史認識や外国人に対する規制強化に関する主張について「不安や懸念」を伝達。斉藤氏は会談後、記者団に対し「政策協議で一致すれば連立政権だが、今の段階ではなんとも言えない」と連立解消の可能性まで踏み込んだ。