4月29日に東京都福生市で男子高校生がハンマーで殴打され、5月1日に殺人未遂容疑で高林輝行容疑者が逮捕された事件。インターネット上では、高林容疑者に同情的な声が集まり、情状酌量による刑の減軽を求める署名活動が行われている。被疑者は福生警察署に逮捕された報道によれば、被害者の少年たちは改造バイクで騒音を発生させていたとされ、高林容疑者は長年にわたり騒音に悩まされていた可能性が指摘されている。
検察庁や裁判所に提出されるとみられる署名は、法的にどのような意味を持つのだろうか。元検察官で刑事手続きに詳しい日笠真木哉弁護士に聞いた。
まず、SNS等において、高林容疑者の行為が「正当防衛」や「過剰防衛」にあたるのではないかという意見もみられるが、日笠弁護士はこれを明確に否定する。
日笠弁護士:「正当防衛が成立すれば無罪、過剰防衛であれば有罪ではあるものの刑が減軽または免除される可能性があります。しかし、これらが成立するためには『急迫不正の侵害』が存在し、それに対してやむを得ずにした行為と言えなければなりません。
典型例は、刃物で襲いかかってきた相手を投げ飛ばすといったケースです。
今回のケースにおける騒音は、精神的にストレスが蓄積していく類のものであり、身体に直接的なダメージを及ぼす急迫した侵害とは言えません。したがって、少年たちが騒音を立てたことを理由として正当防衛や過剰防衛が成立することはありません」
それでは、高林容疑者が長年騒音に悩まされていたという事情、つまり、「被害者側の落ち度」は、法的に全く考慮されないのだろうか。
日笠弁護士は、犯罪自体が成立するか否かの判断と、犯罪の成立を前提としてどのような量刑が科されるかの判断は分けて考えるべきだと指摘する。
日笠弁護士:「被害者側の落ち度は、有罪か無罪かという犯罪の成立には影響しません。
しかし、有罪であることを前提に、刑をどの程度にするかという量刑判断、いわゆる『情状酌量』において考慮され得ることになります。
法治国家において『自力救済』は原則として許されませんが、そうなってしまった背景に同情すべき点があるか、という問題です」
この「被害者側の落ち度」は、まず検察官が起訴するかどうかを判断する段階で考慮されうる。もっとも、ハンマーという殺傷能力の高い道具で殴るという本件の行為態様の悪質性から、不起訴となる可能性は低いという。
日笠弁護士:「ほぼ確実に起訴はされるでしょう。その上で、検察官が裁判所に求める刑の重さ(求刑)を決める段階で、被害者側の落ち度は大きく影響し得ます。
今回のケースでは、求刑がかなり低くなる可能性があります」
では、裁判所による判決にはどのように影響するのか。日笠弁護士は、検察官の求刑は、裁判所が最終的な判決を下す上でも参考にされるため、結果として判決における量刑も軽くなる方向へ働き得ると指摘する。
日笠弁護士:「前科の有無・内容などにもよりますが、執行猶予がつく可能性も十分にある案件だと思います」