実際に起きた事件を題材にした韓国映画は、単なるフィクションではなく、社会の痛みと向き合う“現実の鏡”だ。教育現場の虐待、国家の陰謀、未解決事件、司法の不正――。どの作品も、権力の裏側や人間の弱さ、そして正義とは何かを鋭く問いかける。観る者に深い余韻を残す、心を揺さぶる実話ベースの傑作たちを紹介する。第2回。(文・阿部早苗)
監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ、シム・ソンボ
原作:キム・グァンリム『私に会いに来て』
出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル
【作品内容】
1986年、ソウル近郊の農村で若い女性が殺害され、同様の事件が相次ぐ。
地元刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とソウル市警のソ・テユン(キム・サンギョン)が捜査に挑むが、性格も手法も正反対の2人は衝突を繰り返す。
それでも執念で捜査を進め、ついに有力な容疑者にたどり着くが―。
【注目ポイント】
1986年から1991年の間に10名の女性が殺害された「華城連続殺人事件」をモチーフに描かれたのが、ポン・ジュノ監督長編2作目となる映画『殺人の追憶』である。
映画では、ソウル近郊の農村で女性が無残に殺害される事件が発生し、やがて同様の手口による殺人が次々と起こる。捜査にあたるのは、地元警察の刑事パク・トゥマンと、ソウル市警から派遣された若手刑事ソ・テユン。
性格も捜査手法も異なる2人は激しくぶつかり合いながらも、執念で真犯人を追い続ける姿が描かれている。
次々と起きる凶行の中で、追い詰められていく刑事たちの狂気をリアルに映し出す本作。
1980年代の韓国社会に漂う抑圧と混沌が、どのシーンからもにじみ出ているのが印象的だ。
そして「犯罪者は犯行現場に戻る」という心理学的定説をなぞるように、ラストシーンでは事件の終わりなき恐怖と人間の闇が静かに突きつけられる。
映画の公開は2003年。実際の事件はその3年後、2006年4月2日に最後の事件が公訴時効を迎え、すべての犯行で訴追が不可能となった。
しかし13年後の2019年、ついに衝撃の事実が判明する。犯人はすでに、1994年に妻の妹を強姦し殺害。死体遺棄の罪で無期懲役となっていた男だった。2020年11月、法廷に姿を現した犯人は「刑務所の中でこの映画を観た」と語ったという。
真実が明らかになっても、失われた命は戻らない。本作は、正義を追う者たちの限界と、社会そのものが抱える闇を鋭く抉り出した時代を超えて問い続ける社会派サスペンスの傑作である。