【検視官が見た】夫の死が分からず、強烈な腐敗臭も認識できない…老々介護の悲惨すぎる実態

厚生労働省によれば、2024年の日本の人口における死亡数は160万5298人と過去最多。その中で、警察が変死事案として検視を行った遺体の数は、20万4180体にのぼる。そしてそこには、現代の日本が抱える「高齢者社会」の問題も深く関わっているという…。※本稿は、検視官の山形真紀『検視官の現場-遺体が語る多死社会・日本のリアル』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。【この記事の画像を見る】● 同居人の妻がいたのに 腐敗した遺体で発見された夫

 夏も真っ盛りの8月上旬、消防から通報が入りました。

 「74歳男性、自宅ベッド上で意識・呼吸なしとの119番通報を受け、現場に臨場しましたが、腐敗を認め社会死状態(編集部注:医師の診断を必要とせず、誰もが明らかに亡くなっていると判断できる状態のこと)を確認し病院不搬送。警察官の臨場をお願いします」

 検視責任者とやりとりすると、不審点がある事案であることがわかってきました。死者には同居の70歳代の妻がいながら、腐敗が認められる程度に発見が遅れたというのです。

 同居人がいるのに遺体が腐敗しているという「同居腐敗事案」は、警察としてはまずは事件性を疑う必要があります。もし、死亡しているのを知っていて通報が遅れたというのであれば死体遺棄事件です。

 以前私が担当した事案では、近隣住民からの通報で父親の遺体がかなり腐敗した状態で発見され、同居の中年の息子が「死んでいることはわかっていて放置していました」と現場で自供し逮捕されました。
このような事件の動機の多くは、年金目当てか葬儀のためのお金がないなどです。また、死者の死そのものも慎重に捜査しなければなりません。介護疲れなどによる殺人事件も時折発生しています。

 しかし、こうした事件性のあるものばかりでなく、とくに高齢世帯でありがちなのは、同居人が本当に気づいていないケースです。

● 遺体を認知症の妻に 引き渡す訳にもいかず……

 さて、現場で署員と合流して話を聞くと、やはり同居人であり発見者である妻は話が二転三転し、時系列的な会話が全く噛み合わないようです。おそらく認知症なのです。

 これも最近多いのですが、老老介護でどちらかが認知症になり、例えば、認知症になった妻の面倒をみていた夫のほうが先に亡くなってしまうと、認知症の妻が夫の死に気づかず発見が遅れるということがあります。

 今回、妻の話をなんとか整理すると、昨晩夫が脱糞しており、パンツを穿き替えさせようとしたものの、夫の体が硬くなっていてうまくいかず、本日午前6時頃、夫が起床してこないため寝室に様子を見に行くと、ベッド上で仰向けに倒れ冷たくなっていたので119番通報したとの申し立てです。

 しかし、遺体の様子はと言えば、夏季で死後変化が早いとはいえ早期死体現象である硬直は緩解しており、晩期死体現象である腐敗が始まっています。腹部に青藍色が出ており、腐敗網も出始めています。少なくとも死後2日は経っていそうです。

 この暑さのなかエアコンを使っておらず、死者には病歴も複数ありそうです。環境捜査の結果、事件性を疑う状況はないと判明しましたが、あとはなぜ通報が遅れたのかということです。

 妻の病歴などを確認すると、少し前の診察で、認知症との診断は出ていないものの認知機能の低下が認められたようです。

 別居の親族や付近の住民などからも聴取したところ、妻の様子が最近急激におかしくなり会話が成立しなくなる症状があったなどの証言が得られ、積極的な遺棄行為は認められず、通報が遅れた経緯も故意のものではないと判断されました。

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