ファッション業界で後を絶たない模倣品問題。直近では、人気ブランド「スナイデル(SNIDEL)」「リリーブラウン(Lily Brown)」などを手掛けるマッシュスタイルラボが、ファッションECの「グレイル(GRL)」を運営するアートデコとジオの2社を不正競争防止法違反で提訴し、マッシュスタイルラボが3億円の和解金を受け取る形で決着した。3億円は、公表されている模倣品訴訟の和解金としては最高額とも言われる。なぜこの金額なのか。そして、そもそも模倣の定義とは何か。ファッションローに注力する海老澤美幸弁護士に聞いた。【画像】対象となった17商品のうちの1点海老澤美幸
弁護士、ファッションエディター
ファッション編集者出身の異色の弁護士。ファッション産業に関連する法律分野「ファッションロー」に注力。1998年、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業し、自治省(現総務省)に入省。1999年、宝島社に入社し、女性誌編集に携わる。2003年に渡英し、ロンドンにてスタイリストアシスタントに。2004年からフリーランスファッションエディター/スタイリストとして「エル・ジャポン」「ギンザ」「ハーパーズ バザー」「カーサ ブルータス」等で活動。2014年に一橋大学法科大学院修了、2017年に弁護士登録。2019年から三村小松法律事務所に所属。
⎯⎯今回、3億円という非常に大きな金額の和解金が支払われたことも注目を集めました。
海老澤美幸弁護士(以下、海老澤):金額の大きさは、対象となった商品の数などによるものだと思います。今回は17点の商品が対象となっており、グレイルによる販売数量や利益額も大きかったのではないでしょうか。
損害額の計算にはいくつか方法がありますが、ざっくり言うと、模倣品を販売した側(グレイル)の販売数量に、権利者側(マッシュスタイルラボ)の1商品あたりの利益額を掛け合わせて算出する方法です。ここから、模倣品を販売した側の販売数量が権利者側の販売能力を超える場合や、権利者が販売できなかった事情などがあれば、その分が差し引かれることになります(これを法律用語で「覆滅」といいます)。この計算方法による場合、権利者側の1商品当たりの利益額が大きく、模倣品を販売した側の販売数量が多ければ、損害額は大きくなります。マッシュスタイルラボの商品価格は、グレイルの商品価格の5倍から10倍程度かと思いますので、マッシュスタイルラボの1商品当たりの利益額は大きいでしょう。また、グレイルは安く大量に販売するスタイルですから、販売数量も多いのではないかと思います。そのため、覆滅の点を考慮しても、損害額は大きくなると考えられます。
もう一つの損害額の計算方法が、模倣品を販売した側が得た利益額を損害額と推定する方法です。今回、裁判所がどちらの計算方法に重きをおいたのか分かりませんが、いずれにしても、問題となった商品の点数が多いことや、マッシュスタイルラボの1商品当たりの利益額が高くグレイルの販売数量が多いこと、グレイルの利益額だけを見てもそれなりに大きな金額だったことが影響したのではないかと思います。
アイランドの「グレースコンチネンタル(GRACE CONTINENTAL)」が宮崎のアパレル企業を不正競争防止法で訴えたケース(2019年)では、商品8点中7点が模倣と判断され、約1億4000万円の損害額が認められました。今回のケースと単純な比較はできませんが、今回対象となった商品点数はその倍以上ですから、17点すべてが模倣と認められないとしても、3億円というのはありえる金額のようには思われます。
⎯⎯グレイル側は「あくまで和解であって法律違反と認定されたわけではない。話し合いの中でお互いが円満に解決した」とコメントしています。
海老澤:今回は和解で終結しており判決が出たわけではありませんので、グレイル側としてはこのようにコメントすることになると思います。他方で、3億円は裁判所が提示した金額かと思いますが、裁判所としては、おそらくは17点全部ではないにせよ、ある程度の商品は模倣に当たるのではないかとの心証を持っており、その前提で3億円を提示して双方を説得したのではないかと思います。
⎯⎯ファッション業界において、模倣品の問題は永遠の課題の1つです。模倣品を法律で裁く際には、今回のように不正競争防止法がよく出てきます。
海老澤:今回のように、服のデザインを模倣(形態模倣)されたケースでは、不正競争防止法第2条1項3号が問題となることがほとんどです。意匠登録をしていれば意匠権侵害を主張できますが、ファッションデザインでは登録しているケースは多くないため、不正競争防止法で対応することになります。
デザインの権利というと著作権を想起される方が多いのですが、衣服を含む実用品の形態・デザインが著作権で保護されるハードルは高いのが実情です。この背景には、実用品の形態・デザインは基本的には意匠権で保護しようというすみ分けの考え方があるとされています。意匠権で保護されるには登録が必要ですが、意匠登録には時間も費用もかかることや、出願は原則としてデザインの公開前に行わなければならないことなどから、一般的なファッションデザインではそこまで使われていません。ここで登場するのが、不正競争防止法2条1項3号なのです。不正競争防止法2条1項3号はいわゆる丸パクリ(デッドコピー)を規制するもので、登録なども必要なく、国内での販売から3年間に限り保護を受けられます。