2024年に配信されたドラマ『地面師たち』(Netflix)。2017年に実際に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をモチーフに描かれた同名小説を原作とする同ドラマの大ヒットにより、「地面師」という言葉や犯罪の手口は世間的に広く認知された。一方で、地価高騰の影響もあり現在においても各地で「地面師事件」が起こり続けているのが現状だ。【写真を見る】喫茶店に現れたS被告。積水事件当時使用していた「カイキカン」名義の記録が残った通帳
2025年11月、文京区内の土地と建物の持ち主になりすましたとして男性2人が逮捕され、その2か月後には共犯としてS被告(66、西東京市)が逮捕され、のちに起訴された。このS被告、実は「積水事件」で逮捕された過去のある「有名地面師」だったのだ。
積水事件に詳しいライターの河合桃子氏が保釈中のS被告に話を聞くと、今回の容疑や今後の展望について、飄々と語るのだった——。【前後編の後編。前編から読む】
昨年11月に発覚した、文京区の土地と建物を地主になりすました人物・M(59)と偽の不動産仲介業者I(64)による地面師詐欺事件。2人が売り飛ばそうとした土地は約300平方メートルで、売買金額は10億4500万円。2人は都内の不動産会社経営者に話して手付金500万円を騙し取ろうとした疑いが持たれている。
土地の売買の面談には、地主が本人であるかを確認するための本人確認書類が欠かせない。しかし公的な書類を精巧に偽造するのは簡単なことではない。S被告によれば、Iはかねてより知り合いだったS被告に話を持ちかけてきたのだという。
S被告はかつて積水詐欺事件で口座を用意するという重要な役割を担い、この世界では名の知れた人物でもある。Iはその人脈を頼ったのだろう。S被告に経緯を聞くと、「まさか詐欺に使うなんて思わなくて、俺は完全に巻き込まれちゃったようなもんなんだよね」(S被告、以下同)とうそぶくのだ。
「昨年8月頃に、Iから『保険証を作ってほしいんだよ。”○○”って名前で。20万円くらいお礼するから。とりあえず5万払うよ』と頼まれて、すぐ5万円振り込んできたんだよ。振り込まれちゃったしやるしかないかと思って、ちょうど手元にあった期限切れの俺の保険証の写真を撮って、チャチャッと加工したんだ。
こんなオモチャみたいなの使えるわけないし、だからIに『悪いことに使うなよ』って言って送ったの」
保険証の偽造はその完成度の質に関わらず有印公文書偽造罪にあたり立派な犯罪だ。そもそも偽造の保険証を「悪いこと」以外に使う用途はあるのだろうか。
「まさか詐欺に使うとは思わないしね……。Iに地面師詐欺なんてできるわけないって思ってたから、俺も軽い気持ちでやっちゃったんだよね。でもIのやつ、その後、残りの15万円も払わなくてそのままトンズラですよ」
S被告が繰り返す『詐欺に使うと思わない』という主張は、地面師がよく使う”方便”のひとつだ。役割を細分化し詐欺行為の一部のみを担うことで、逮捕されても「用意したものを何に使うか知らなかった」とすれば、詐欺行為としての起訴を免れる可能性がある。