英国警察は2月19日、チャールズ国王の弟であるアンドルー元王子を公務上の不正行為の容疑で逮捕した。元王子は、米司法省が最近公開した捜査資料、通称「エプスタイン文書」に基づき、少女らの性的人身取引の罪で米国で起訴され勾留中に死亡した米富豪ジェフリー・エプスタイン元被告に機密情報を漏洩していた疑いが浮上していた。身柄は同日中に釈放されたが、捜査は継続中で、キア・スターマー英首相への退陣圧力は一段と強まりそうだ。
一方、エプスタイン事件の本拠地といえる米国では、ドナルド・トランプ大統領や政権関係者の名前が文書に複数回登場しているにもかかわらず、政権を揺るがす騒動には発展していない。トランプや高官の不正行為を示唆する決定的な証拠はこれまで公開された文書の中には含まれておらず、大統領は事件を正面から取り合おうとしていない。
英国警察はアンドルー元王子を逮捕後、英南部バークシャーと東部ノーフォーク州にある邸宅を家宅捜索した。現時点では訴追には至っていない。元王子の他にも、英国では最新の文書公開を受けてピーター・マンデルソン前駐米大使が捜査対象となり、与党・労働党を離党している。マンデルソンはエプスタインとの親交が問題視され、9月に解任されていた。
最新の公開文書からは、マンデルソンとエプスタインの関係をめぐる新事実が数多く明らかになった。2008年にエプスタインが未成年売春の勧誘・斡旋で有罪となった後も2人の親交が続いていた証拠や、マンデルソンが政府の機密情報をエプスタインに提供していたことを示唆する電子メールも含まれている。2人の関係はマンデルソンを大使に任命したスターマー首相の指導力をも大きく脅かしており、文書公開後に主席補佐官ら側近2人が辞任。スターマー自身も退陣要求にさらされている。
■英国で広がる波紋、米国より大きい理由は
エプスタイン文書は英国政界に激震をもたらしている。トランプ大統領が自身とエプスタインとの深い関係を否定し、ハワード・ラトニック商務長官ら複数の政権関係者の名前が文書に登場しているにもかかわらず政治生命の危機にまでは陥っていない米国とは対照的だ。もっとも、トランプやラトニックをはじめ文書で名指しされている政権関係者は、これまでエプスタインとの関係において何ら不正行為を告発されてはおらず、エプスタインの虐待疑惑についても知らなかったと主張している。
この英米の政界への波紋の広がり方の違いについて専門家は、英国の議会制度など、いくつかの理由を挙げている。英国の議院内閣制においては、議員が首相への信頼を失った場合、内閣不信任案を提出して可決されれば辞職に追い込める。英シンクタンクの政府政策研究所(IfG)でエグゼクティブディレクターを務めるアレックス・トーマスは「議会制民主主義には、説明責任を促す力がある」とAP通信に語った。
英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、エドワード・ルースは、トランプとスターマーはエプスタイン事件への対応に関して正反対の動機を持っていると示唆した。スターマーにとっては、事件の調査を推進するほうが自身の「政治的生き残り」を図れるというのだ。マンデルソンの大使任命が疑惑の軽視と受け止められたため、真剣な対応姿勢を示そうと努めている。一方、トランプにとっては、エプスタインとのつながりを深堀りされるのを避けるためには「エプスタイン・スキャンダルを過去のものとして未来を見る」よう人々に促すほうが戦略的に有利だという。
また、英国では「政治的な恥」が米国と比べて重く見られているためだと指摘する専門家もいる。米国ではトランプが数々の物議や刑事告発された経歴を抱えながら2期目の大統領に当選した。マンチェスター大学のロブ・フォード教授(政治学)は「これは、英国のほうが(米国より)機能的に優れたメディアと説明責任の仕組みを有しており、政治にまだ一定の恥の概念が残っていることを示唆していると思われる。つまり、国民が『これは容認できない、これはやってはいけないことだ』と言うのだ」とAP通信に説明した。