“偶然”知り合った人物が実はスパイだった 日本企業の社員を狙うスパイの実態

最近、日本人が国内でスパイの被害に遭った事件が報じられた。警視庁公安部は1月20日、首都圏の精密機械メーカーに勤務していた30代男性と、在日ロシア通商代表部の職員として駐在していたロシア人の30代男性を、不正競争防止法違反(営業秘密開示)容疑で東京地検に書類送検した。【画像】ロシアのスパイはどんな人? 日本の企業や社員がターゲットスパイ防止法制定への機運がこれまでになく高まる中、多くの人にスパイの実態を知らしめるニュースとなった。今回の事件は、典型的なロシアのスパイ工作で、日本企業のビジネスパーソンなら誰しも他人事ではない。

 ロシアに限らず、スパイは私たちのすぐそばにいるのである。そこで、国内外でスパイやインテリジェンスの研究を行っている筆者が取材などで把握してきた、日本におけるロシア人スパイの活動実態に迫ってみたい。

 今回の事件は、他のスパイ事件でもよく見られる手口が使われている。最初は2023年4月、精密機械メーカーの日本人社員が会社近くの路上を歩いている際に、外国人男性から声をかけられ、道を聞かれた。この社員は親切心から道を教えたが、外国人男性は自分がウクライナ人であると話し、道を教えてくれたお礼がしたいと申し出たという。

 そこから2人は知り合いになり、ファミレスやすし屋、焼肉屋などで会うようになった。外国人男性は当初、パンフレットのような公開されている資料を会社から持ってきてほしいとお願いした。日本人男性が資料を手渡すと、そのたびに謝礼を支払う。そして、2人は1年10カ月にわたって数十回も食事に行っていた。
スパイはまずターゲットを絞り、その人物の弱みを探り、そこを巧みに突いて情報を提供させようとする。この場合は、金銭がその弱みだったようだ。

 またスパイは、弱みそのものを作り出すこともある。最初は資料を持ってきたお礼として、少額でも金銭を渡す。それを受け取ると共犯になってしまい、その関係を切ろうとすると「すでに共犯だ」と脅されることもある。さらに機密情報を持ってくるよう要求がエスカレートすると、お礼の金額も増え、ますます逃げられなくなる。

 今回のケースでも、日本人男性は合計70万円をロシア人スパイから受け取っていた。そのお金は、旅行などに使ったという。日本の情報当局関係者は「この人物はロシアの対外情報機関であるSVR(ロシア対外情報庁)のスパイで、通商代表部の副代表だったとみられている」と指摘する。

 このケースが氷山の一角だとは言わないが、似たような事件は日本でいくつも起きているだろう。

 事実、2020年には通信大手ソフトバンクの元社員が逮捕されている。元社員は東京・新橋で外国人に「近くにいい店知りませんか」と声をかけられ、知り合って食事をする仲になった。最初は会社のパンフレットのようなものを要求され、見返りに金銭を受け取っていたが、最終的にはソフトバンクの5G(第5世代移動通信システム)技術に関する情報を奪おうとした。

 この事件でも、新橋で声をかけたのは30代のロシア人で、やはり在日通商代表部に所属する副代表だった(今回の事件とは別人物)。ただ、この人物は本国に帰国し、その後、後任として来日した50代の副代表が、ソフトバンク社員へのスパイ工作を引き継いだ。その後、事件が発覚した。

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