駅や繁華街から遠く離れたところにポツンと孤島のように存在する酒場のことを、イラストレーターの加藤ジャンプ氏は、ロビンソン酒場と呼んでいる。最寄り駅から徒歩20分という立地にあるお目当てのお店までの道のりは想像以上に長く、加藤氏と担当編集は疲れ果てていた。その空腹と絶望の先に待ってたものとは?※本稿は、イラストレーターの加藤ジャンプ『ロビンソン酒場漂流記』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。【この記事の画像を見る】● 霊園を通り越えた先にある ロビンソン酒場
その店を知ったのは、車で迷子になったせいだった。
神奈川県川崎市に生田緑地とよばれる都市公園がある。そのなかに日本民家園という全国から歴史的な民家を集めた施設がある。新左翼の竹本信弘が逮捕された場所でもある。
私は、この民家園が好きで子どもの頃から何度も足を運んでいるのだが、帰り道に「近くにある藤子・F・不二雄ミュージアムの近くを通ってみよう」なんて色気を出して道に迷ったことが何度かある。そのとき、この店を見かけたのである。
もちろん、繁華街や駅からは遠いのに長く愛されていることがロビンソン酒場の定義だから、当然その店も駅からは遠い。いちばん近いJR津田山駅からも1.6キロはある。津田山駅はJR南武線の主要駅の一つ武蔵溝ノ口駅(接続しているのは東急田園都市線の溝の口駅)から1駅である。溝ノ口からはバスで行くことになるが、津田山駅からの徒歩の道のりは、ちょっと夏向きなルートである。
いつものように編集者のMさんと待ち合わせしたが、先に着いた彼は駅の近くのスーパーマーケットのなかのカフェで待っていた。Mさんを見つけたとき、Mさんは素顔だったが、私を見つけるとすぐにサングラスをかけた。役作りに余念がない。
津田山駅は山というだけあって駅を出るといきなり坂道がつづく。駅近くにありがちなコンビニなどは一軒もなく、道の左右にあるのは石材店ばかりである。石材店という時点で勘のいい人はすぐ気づくが、この駅前の道はまっすぐ霊園につづいている。
霊園というとやたらに怖がる人がいるが、私は水木しげる先生ほどではないがそこそこ墓地というか霊園好きである。霊園はいい。子どものころから、いちいちお墓なんてつくっていたら世界はお墓でいっぱいになってしまうと思っていて、その考えはいまもあまり変わっていないから、お墓自体にはほとんど関心はないし、都市部にあるコインロッカーみたいな霊廟にも興味はない。
ただ、霊園は、公園として見ると素晴らしいのである(罰当たりな物言いだったらすみません)。それなりに時代をかさねた霊園では、木々は立派に育っているし車通りもなくて、うるさい人もいない。人気がないかというと、生身の人はお盆やお彼岸をのぞいてそうそう多くは見かけないものの、いつでもなんとなく人気は感じられる……みたいなことを言ったらMさんは、ちょっと怖がっているようだった。
● お店までの道のりで 古墳にコーフンする
駅からずっとつづく坂道をのぼりきると芝生がこんもりと盛り上がったところがある。
古墳だ!とコーフンしたら、無縁納骨堂であった。実際このあたりは古墳がたくさん見つかっているところなので、そのコーフンもまんざらではなかった。ちなみに、途中で割烹着姿で有名になった或る研究者の珍しい苗字と同じ名前のお墓なども見つけ、その時もMさんとたいへんコーフンした。