山上徹也被告【山上被告に無期判決】安倍元首相殺害:犯行は被告の「飛躍」、なお残るカルト対策の「空白」

紀藤 正樹
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による「家庭崩壊」と、政界を震撼(しんかん)させた安倍晋三元首相銃撃事件(2022年7月)とはどんな関係にあり、社会はどう受け止めるべきか。事件の1審判決を受けて、統一教会問題やカルト被害に詳しい紀藤正樹弁護士が考察する。
1月21日、銃撃事件から約3年半を経て、山上徹也被告に下された奈良地裁の判決は、求刑どおりの無期懲役となった。刑事裁判実務では、実刑判決を選択する場合に求刑どおりの判決となることは珍しいが、無期懲役が維持されたのには、それなりの理由があるように思う。

1つは、複数の罪の認定がある。被告には殺人罪のほか、銃刀法違反(発射罪)、武器等製造法違反、火薬類取締法違反、建造物損壊罪の複数の罪に問われていたが、弁護団は、被告が作った銃は、銃刀法や武器等製造法でいう「拳銃」にも「砲」にも当たらないから発射罪は成立しないなどとして、銃刀法違反、武器等製造法違反については無罪等を争っていた。この点が有罪となったことで、重くとも20年までにとどめるべきだ、という弁護側の主張は崩れ、より重い刑罰となった。

次に、求刑どおりの実刑判決になる場合は、通常、被告人に反省や謝罪がないという点が考慮される場合が多い。判決でも「本件各犯行の危険性や、被害者1名が死亡したという結果の重大性を十分に認識している態度までは認められず、十分な反省に至っているとまでは認められない」としている。

山上被告が、ご遺族の安倍昭恵さんに対し直接の謝罪をしていないことや、申し訳ないと言っても、遺族に賠償金を支払う努力など、具体的なものがないことなども考慮された可能性がある。
第3に、弁護団が主張の柱としていた被告の生い立ちがまったく考慮されなかった点が大きい。「統一教会やその関係者に対し、激しい怒りの感情や思い知らせたいなどとの感情を抱いたとしても、現実に殺人行為によって他者の生命を奪うことを決意し、そのための道具である手製銃等の製造を計画して実行するという意思決定に至ったことについては、大きな飛躍があるといわざるを得ず、被告人の生い立ちの影響を大きく認めることはできない」として、生い立ちの問題を、判決が「飛躍」として切り捨てた部分である。

しかしながら、未成年時に受けた虐待がその人の人生を狂わすことは大いにある。いわゆる「宗教2世」の被害訴訟でも、未成年時の虐待が年齢を重ねても精神的被害につながることこそが最大の立証課題であり、虐待がなくなった後も被害者のその後の人生や精神に影響を与える継続的被害であることを立証することで、損害賠償額が増額されると考えている。

今回の判決で言うと、統一教会への強い恨みが、なぜ統一教会やその関係者ではなく安倍元首相の襲撃につながったのか。「飛躍」ととるか「必然」ととるか重要な分岐点となるが、判決は「飛躍」ととった。この点は、未成年時での統一教会被害の影響が、犯行時まで不可避的に影響したという弁護側の立証、すなわち、弁護側の専門家証人として、精神科医ないし心理学者証人がいなかったことにも原因があると思われる。

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