「君、人殺したことあるよね?」。一時は迷宮入りがささやかれた“今市事件”こと栃木小1女児殺害事件。検事によるこの質問を皮切りに、計約3カ月間におよぶ殺人容疑での取り調べが始まった。対象は、警察がマークし、別事件で逮捕した男。男が捜査の様子をつづった「被疑者ノート」や公判証言などによると、取り調べは過酷を極めた。男の証言によると、取り調べ中に自殺未遂にも追い込まれたことも。後に有罪判決を下した裁判所さえ批判するほどだった。男は現在、獄中から冤罪を訴える。事件発生から20年、取り調べの実態を再検証した。(共同通信=武田惇志、片山歩)
▽食い違う証言
女児殺害事件の発生からおよそ8年後の2014年1月29日。台湾出身の勝又拓哉受刑者は、偽ブランド品を販売したとして、商標法違反容疑で現行犯逮捕された。殺人事件に関する取り調べが始まったのは、2月18日の午前。場所は宇都宮地検だった。
「君、人殺したことあるよね?」
公判証言によると、担当の大友亮介検事は最初、勝又受刑者にこう質問を投げた。「どういう反応をするのかな。どうせ認めないだろう」。そう考えてのことだったという。
すると勝又受刑者はがたがたと震え、目に見えて動揺した。さらなる追及にむせび泣き、殺害を認める供述調書に署名したという。
しかし勝又受刑者自身は、法廷で異なる証言をしている。取り調べ当初「殺してません」と否定したが、その答えに大友検事は怒り出した。怒鳴られたり、書類で机をたたかれたりして、勝又受刑者は恐怖で縮み上がり、パニック状態に。さらに「どうでもいいからサインしろ」と強要され、自白調書にサインしたという。
2人の証言は食い違っているが、このときのやりとりは録音・録画されておらず、真相は分からない。
▽平手打ち
その他も重要なシーンは録画されていない。例えば、2014年2月20日に栃木県警の松沼史剛刑事から「『殺してごめんなさい』を50回言わされた」と、勝又受刑者が公判で主張した場面もそうだ。