「とにかく悲惨な本とか雑誌をお願いします」逮捕されたスカウトが「奇妙な差し入れ」を要求したワケ

スカウトという仕事自体は違法ではないのに、なぜ彼らは繰り返し逮捕されてしまうのか。新宿歌舞伎町では、性風俗店への人材紹介が「公衆道徳上有害な業務」とみなされることで、職業安定法違反として処罰の対象になっている。たとえ風営法を守って営業している店の求人でも、紹介しただけで違法とされるのだ。そこには、法律の矛盾と「職業選択の自由」をめぐる深い問題が横たわっている。現場を知る弁護士が、その背景をわかりやすく解き明かす。※本稿は、弁護士の若林 翔『歌舞伎町弁護士』(小学館)の一部を抜粋・編集したものです。【この記事の画像を見る】● 留置場のスカウト会社社長に 差し入れた1冊の本

 「パキスタンの子と同房になったんですよ。なんか面白そうな奴なんで、ガイドブックをお願いしてもいいですか?」

 顔馴染みのスカウト会社の社長がまた捕まった。彼との付き合いは、もう10年以上になる。今回の容疑は職業安定法(職安法)に関連する違反行為だ。彼がまだ20代だった頃、私が初めて留置場に差し入れした1冊は、今でも覚えている。

 留置場ではまともな食事もできないだろうから、せめて想像の世界でと考えて、美味そうな写真入りの料理エッセイ本を差し入れたのだ。

 「先生、気持ちはありがたいんですけどね。ちょっと、そういうんじゃないんですよ」

 若き日のスカウトは、私を励ますように言った。

 「留置場にいるのに、食えないもん見たって、しょうがないじゃないですか。やたらと腹減るだけで嬉しくないっす。楽しいのじゃなくて、とにかく暗いのをお願いしますよ。戦争に行って両脚がフッ飛ばされた兵隊とか、親に虐待されていた子供の話とか」
● 俺なんか、まだマシじゃん 他人の不幸が心の支えに

 路上でのスカウトは、ナンパなどよりはるかに難しい。

 やり手のスカウトは皆、相手の心を読み、操るスペシャリストだ。私の頭にクエスチョン・マークが浮かんでいることを察した彼は、すぐに言葉を足してくれた。

 「自分より酷い場所にいたり、辛い目にあっている人がいると思うと頑張れるんです。『俺なんか、まだマシじゃん』って。だから、とにかく悲惨な本とか雑誌をお願いします」

 私は妙に納得してしまった。

 「そうか、単純に暗い気持ちになるわけじゃないんですね」

 「むしろ、他人の不幸が心の支えなんですよ」

 ドライで軽妙なトークに感心し、私はその後、彼と「ビジネス半分、親しみ半分」の関係になった。

 彼や彼の部下、友人が何かしらの理由で警察の厄介になる度に、彼は私を選任してくれるようになり、プライベートでも酒を酌み交わし、リアルな歌舞伎町の裏話を聞かせてもらう。いつの間にか、そんな関係になった。

 彼は、自分より不幸な人々の物語を心の支えにするだけでなく、同房になった者たちと交流し、口頭試験を行い、自ら経営する会社のメンバーにしてしまうほどの「コミュニケーションお化け」でもあった。

 なぜ彼は、逮捕されたのか。それは「スカウト」という仕事がそもそも違法なビジネスだからなのか。いや、そうではない。スカウトというビジネスそのものは合法だ。それゆえに、テレビをつければ、転職エージェントを名乗る人材紹介会社のコマーシャルが四六時中流れている。そして繰り返されるナレーション。

 「あなたの価値は想像以上だ」。

 読者の皆さんに理解していただきたいのは、有名な俳優をコマーシャルに起用している大企業と、歌舞伎町の路上をうろつく小さなグループの間に、「スカウト」というビジネスをめぐる本質的内容の差はないということだ。

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