霞流一『スカーフェイク 暗黒街の殺人』(原書房)が熱い。なんと九章構成の第三章以降がすべて“解決編”なのだ。
三つのギャング組織が勢力を争いながら支配している街。その組織の一つから他の組織に鞍替えした鮫肌の哲が殺された。現場は密室。三組織のボスたちは、警察にダミーの犯人を出頭させる一方で、真相究明を探偵・邪無吾に依頼した……。
この密室殺人は、特殊な展開となる。大物である鮫肌の哲を殺したのは自分だと主張する者が続出したのだ。かくして邪無吾は、彼らが主張する密室トリックを検証する羽目になる。それ故に読者は、フーダニットの大枠のなかに倒叙ものの密室ミステリがいくつも敷き詰められた構成を満喫できるのだ。特筆すべきは、邪無吾は、各人が語る“密室トリックの可否”ではなく、成立しうるその密室トリックについて“現場の証拠との矛盾の有無”を吟味するという点だ。読者にはその矛盾となる情報を予め提示してあるため、トリックそのものに加え、その不成立を証明する伏線の冴えという面でも推理の刺激を満喫できる仕掛けだ。もちろん大枠のフーダニットにも趣向が凝らされていて大満足。
阿津川辰海『最後のあいさつ』(光文社)も凝った構成だ。三十年前の事件――人気刑事ドラマの主演俳優が最終回直前に妻殺しの容疑で逮捕されたが、記者会見で“真犯人”を指摘して無罪を勝ち取る――と、当時と同様の手口で発生した現在の殺人事件について、ノンフィクション作家が取材を通じて真相を探るのである。この構成を用いて、著者は、役者であること、さらには名探偵であることについて深く掘り下げる。もちろん過去と現在を貫く驚愕とともに、だ。シンプルながら切れ味のよい密室トリックもあり、満足度は高い。
山口未桜『白魔の檻』(東京創元社)は、鮎川哲也賞受賞作『禁忌の子』の続篇。北海道の山奥の病院が濃霧に包まれるなか、一人の病院スタッフが変死体となって発見された。病院はその後の地震で発生した有毒ガスに囲まれて決定的に孤立。そんな状況下でも新たに斬首事件が……。強烈なサスペンスのなか、手掛かりを丹念に集めて謎解きを進める丁寧な推理が愉しめる。高評価を得た前作の読者も満足するであろう。ミステリとしての魅力に加え、事件発生から真相解明に至る流れのなかで、過疎地医療の問題点をしっかり認識できるように書かれている点にも好感を抱いた。