「父親に理解してほしい…」虐待されても嫌いになり切れなかった男性が選んだ“最後の行動”

警察庁によると、2022年・23年・24年と、小中高生の自殺者は3年連続で500人を超えた。子どもの自殺の原因として多く挙げられるのが「家庭問題」。その中でも、虐待の問題を抱えていた人は少なくないという。実際の事例とともに、虐待と自殺の関係を見ていく。※本稿は、渋井哲也『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。【この記事の画像を見る】● 「虐待」と「自殺」の 因果関係とは

 筆者が直接取材したのち、実際に亡くなってしまった人には、家庭問題を抱えている人が多かった。その中でも、虐待を訴えていた当事者は少なくない。身体的虐待や性的虐待、宗教を背景としたものを含む両親の過度な期待……。

 取材した人のうち、1人目の自殺者となってしまった女子中学生も、父親や兄から虐待を受けていた。警察庁による自殺統計では、毎年、19歳までの自殺の要因は、学校問題や健康問題に次いで、家庭問題が多くなっている。

 ここでは虐待と自殺の関係について見ていく。

● 虐待する父親に対する アンビバレントな感情

 晴男(仮名、20代)は小さいころからしゃべるのが得意ではなかった。しゃべろうとして口を動かしても、緊張感が高まると、なかなか声が出てこない。そのため、父親に物を投げたり、うまく言い返すことができないながらも、口答えをしたりしていた。

 「父親は話を聞かないタイプです。玄関の外に出されたり、殴られたりしました。まともな会話をしたことがありません」
小学生のころから父親の暴力を受けていた。それが当たり前だった。身体的虐待がこのころから始まっていた。中学生になると父親とは距離をとり、ほとんど話をしていない。でも、父親に対してアンビバレントな感情があった。

 「父親には理解してほしいんです」

 父親のことは大嫌いで怖い存在だが、嫌いになりきれない。

 虐待された子どもは、人の顔色をうかがいながらも、加害者を遠ざけられないことがある。嫌いになりきれなかったりもする。振り向いてほしいという感情もあったりする。

 ただ、晴男がその関係性を見直そうと思っても、父親は自営業で、晴男が中学生のころには、朝起きたときにはもう家を出ていることがほとんど。夜は午後11時過ぎに帰宅するのが普通。生活のリズムが違うため、会話することもままならない。

 母親は、父親の会社の事務を手伝っていた。筆者は1度、母親に会ったことがあるが、真面目でもの静かな印象の女性だった。

 「父親からの虐待のことを母親に言うと、『放っておきなさい』と言うくらいでした」

 高校生くらいになると、父親も晴男と会話をしたいと思っているのか、晴男が遅く帰宅すると、「高校生は早く帰ってくるもんだ」と注意する。しかし、父親が酔っ払って帰宅するときは、機嫌が悪い。理不尽なことを言って、晴男を殴る。その反面、優しくする場面もあったという。

● 「虐待の後遺症」が生み出した “最悪の結末”

 実は、そんな父親の行動様式を晴男自身が身につけてしまっていた。虐待や暴力は連鎖するともいわれているが、晴男の場合、連鎖の矛先は、同級生の彼女サチコ(仮名)だった。

 サチコも晴男との関係に悩んでいたが、自身も、人間関係の構築が苦手だった。人に悩みをうまく伝えられなかった。

 晴男はサチコに、インターネットにメンタルヘルス系の情報が多いことを伝えた。すると、サチコはその世界にハマっていく。自らサイトを作り、人間関係を広げていく。その関係に晴男自身も参加していく。

 あるとき、晴男から筆者に電話があった。

 「『死にたい』って言えなくなってしまったんですよね」

 彼はもともと、「死にたい」という言葉を使いながら筆者に悩みを相談することが多かった。

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