逮捕の瞬間ばかり大きく報じられ、その後の裁判は忘れられていく──。そんな日本の事件報道のあり方に疑問を投げかけ続けてきたのが、関西テレビの記者、上田大輔さん(46)だ。【現役記者が暴露】警視庁と記者クラブの「いびつな関係」企業内弁護士から記者に転じ、逆転無罪連発の裁判官や供述調書流出の「その後」を追う番組を作ってきた。今回、監督として初めて手がけたドキュメンタリー映画『揺さぶられる正義』が9月20日から公開される。
テーマは「冤罪の温床」とされる「揺さぶられっ子症候群」(SBS)だ。上映を前にインタビューで、記者としての覚悟と葛藤を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
──映画は「揺さぶられっ子症候群」(SBS)を扱っていますが、それ以上にマスコミ報道への問題提起を感じました。
僕は今の新聞やテレビの事件報道の特徴を「逮捕報道中心主義」と呼んでいます。逮捕の瞬間は大きく取り上げるのに、その後の扱いはどんどん小さくなる。警察発表を中心とした報道が中心になってしまっているんです。
映画には弁護士が登場するシーンが多いので、偏っていると思う人もいるかもしれませんが、そもそもこれまでが警察・検察情報に寄りすぎていた。全体のバランスを少し戻しただけだと考えています。
──弁護士はメディアに不信感を抱く人も多い。弁護士から記者に転じたとき、自己嫌悪のような感情はありませんでしたか。
報道局に異動して最初に感じたのは「報道の現場はかなり真面目にやっているな」という印象でした。ただ一方で、逮捕報道に大きな労力を割くのに、裁判報道には同じ熱量が注がれていないとも思いました。
記者になって、自分の取材で誰かを傷つけているかどうかは、そのときにはわかりません。後になって気づかされることが多いです。SBSを取材する中で、自分自身がメディアに不信感を持つ当事者と向き合わざるを得なくなっていきました。
──SBSを取材するきっかけは。
記者1年目の2017年、ある研究会でSBSの事件を担当する弁護士の講演を聞きました。「科学的な根拠が薄く、冤罪が量産されている」という話でした。
SBSは「1秒間に3往復」の激しい揺さぶりで起きるとされますが、ちょうど乳児を育てていた時期でもあり、「イライラすることはあっても、そんなに強く揺さぶる親が本当にいるのか?」と違和感を覚えました。
そこで「刑事司法の大きな問題が如実に浮かび上がるかもしれない」「取材しなければ記者になった意味がない」と直感しました。類似事件がいくつも起こっていて、当事者の話を次々と聞きに行くようになりました。