TBSドラマでクローズアップされた「別班」。だが、実在する「別班」とはどのようなものなのだろうか? 『VIVANT』の参考文献ともなった著書の作者・石井暁にその全貌を語ってもらった。【写真】自衛隊の闇組織「別班」の正体とは
別班員は国内でも海外でもロシア、中国、北朝鮮を中心とする海外情報を収集する任務を与えられている。自衛官という身分を隠すために、商社マンや興信所の調査員、他省庁職員など、さまざま職に常に偽装している。自衛官の身分のままでは、情報収集は困難だからだ。
しかし、この身分偽装はあくまでも形式的に装うだけで、実際にそうした仕事をしているわけではないし、そんな時間的な余裕はない。別班員は国内でも海外でも、1人で情報収集するのが原則。単独の方が目立たないし、危険を回避できる。もちろん、必要な場合にチームを組んで情報収集作業に当たることはあるが、あくまでも例外的なやり方だと聞いた。
警察庁警備局とその実働部隊の中心である警視庁公安部、いわゆる外事・公安警察とは、情報収集という目的では一部任務が重なる部分がある。しかし、別班の任務はロシア、中国、北朝鮮をはじめ海外の軍事情報を収集することが中心。治安維持目的で国内、海外情報を収集する外事・公安警察とはその目的が違うので、別班と外事・公安警察が協力して情報収集したり、情報交換することは基本的にはない。
一方で、公安警察が軍事組織である自衛隊をクーデター防止の観点から常に監視対象としているのは事実だ。公安警察官は常に市ケ谷の防衛省や自衛隊部隊を訪問、幹部らと関係を築き、動向をウオッチしている。「別班は非公然部隊なので、常に行動に注目して、監視している」と話してくれた公安警察官もいた。
軍事組織に属する制服組の情報担当官が海外で情報収集活動をする場合、3通りの方法がある。1番目は駐在武官(日本の場合は防衛駐在官)になって正式に制服を着用して情報収集活動をする方法。この場合、各国の駐在武官とのパーティーや駐在国の軍との交流の中で公式に活動しなければならない。当然、駐在国の情報機関の監視対象となる。
2番目は他省庁から大使館の一等書記官や二等書記官として派遣されて活動する方法。駐在武官より自由度は高いが、駐在国の情報機関からはやはりマークされる。
そして3番目は商社マンやメーカー駐在員、報道機関の記者などに偽装して情報収集する方法だ。この場合、駐在国の情報機関に正体が知られなければ、自由に活動できる。だが、1番目、2番目のケースは大使館員で外交特権(不逮捕特権)があるが、3番目のケースはこの特権がない。別班員は2番目の方法をとる場合もあるが、3番目の方法が多い。危険を覚悟しさえすれば自由に情報収集活動ができるからだ。しかし、3番目の方法は、駐在国の情報機関、捜査機関に身分偽装と違法な情報収集行為が知られてしまうと逮捕、拘束されてしまう危険性が極めて高い。
日本政府は「別班なるものは過去も現在も存在しない」と公式に断言しており、救済の方法もない。別班員経験者の一人は「違法な活動でいつも不安だった。万が一の場合、トカゲのしっぽ切りで、国から見捨てられると思っていた」と話していた。
また、任務中に殉職した場合の救済や補償の制度もまったくない。これまで、国内外で別班員が逮捕、拘束された事例や別班員が殉職した事例は当然明らかになっていないが、闇から闇に葬られてきた可能性もある。
失敗しても運良く逮捕、拘束されず、殉職することもなく別班の任期を終えた班員は、公然部隊に異動することになる。専門性の高さから情報部隊に移るケースがほとんどだ。だが、別班に在籍中の人事記録が空白で怪しい経歴となる。周囲の隊員はなんとなく気づくこともあるという。公然部隊に勤務しても、心理戦防護課程での教育、訓練や別班での違法な情報収集活動をしていたことによる精神的な影響は残る。
「妻子に対しても、心の中で壁をつくってしまう」
「喜怒哀楽など、自分の感情を完全にコントロールできるようになってしまった」
「親友がいなくなってしまった。人生を変えられてしまった」
「別班員は自分の本性を出さない。一種の精神的な病気だ」
別班の任期を終えても、彼らの苦悩は一生続くことになる。(つづく)
【第1回】日本最大のタブー…自衛隊「別班」の存在が明らかになったある事件とは
【第2回】コードネームで生き、本名も知らない…自衛隊「別班」の異常すぎる日常