「多数の案件が同時に動いている」――大阪府警2課担コンビが追った「地面師」事件をたどる…「関西最後の一等地」で暗躍、見え隠れする指示役「キングメタル」の存在

「地面師が大阪で動いているようだ」

 昨年6月上旬、社会部の記者は、懇意にしている情報通からそう聞いた。南海難波駅に近い大阪市浪速区の土地が、不正に売りに出されているという。【一目でわかる図表】取材と事件の経緯地面師詐欺――。土地の所有者になりすまして勝手に売却し、金を得る年季の入った手口だ。昭和時代から何度も繰り返されてきた。「不動産バブルの今だからか」。驚きを隠せない記者に、情報通は付け加えた。「多数の案件が同時に動いているみたいですよ」

 大阪市内はコロナ禍の収束以降、4年連続で土地の価格が上昇し、再開発ブームに沸く。昨年の大阪・関西万博や、カジノを含む統合型リゾート(IR)の開発が追い風になっている。

 記者の頭に浮かんだのは、小説を原作にネットフリックスで人気を集めたドラマ「地面師たち」だった。「物語さながらの大きな組織が裏で動いているのだろうか」

 当事者から話を聞こうと、記者たちは、関係者に当たり始めた。不正の闇は、大阪・キタの一等地にも及んでいた。
地面師の姿を捉えようと、社会部記者の坂戸奎太(31)は関係者捜しを始めた。

 昨年8月中旬、坂戸が対面で取材したのは、経営コンサルタント業の木村和彦(仮名、50歳代)だ。木村は、南海難波駅に近い大阪市浪速区の土地(85平方メートル)の売買を仲介したとし、「僕は地面師側ではない。被害を食い止めた立場だ」と断って、話し始めた。

 木村の説明はこうだ。

 昨年2月頃、浪速区の土地が売りに出されていると知り、会社経営の購入希望者とともに、土地の所有者を名乗る50歳代の男性と、高級ホテルのラウンジで面会した。木村と購入希望者は、男性から「3か月前に元の地主から9000万円で土地と建物を買ったが、急に現金が必要になった。6000万円で売りたい」と言われた。購入希望者は「相場より安い」と応じ、その場で購入の手付金として500万円を支払った。

 面会後、購入希望者は、念のため、改めて法務局の不動産登記簿を確認することにした。登記簿には不動産の所有者が記載され、誰でも閲覧できる。売買の際には確認するのがビジネスの基本だ。

 だが、この土地については「手続き中」を理由に閲覧できない状態だった。登記簿は、不動産の所有者が変わったり差し押さえられたりすると、法務局が内容を変更するため一時的に閲覧できなくなる。

 疑念を抱いた木村が3日後、再度の商談の場で問い詰めると、男性は「いや……」と口ごもり、うろたえた。結局、「男性の土地購入をサポートした」という司法書士に電話することになった。

 司法書士は松本稜平(34)と名乗り、木村に「男性の土地取得に問題はなかった」と主張。だが、木村が面会を求めても応じなかった。土地の商談は立ち消えとなり、手付金500万円は戻ってこなかった。木村は「松本らは詐欺師や」と憤った。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする