1年2カ月の間に2億2700万円。会社の金を着服したとして、業務上横領の罪に問われた50代の男を検察官は法廷で何度も追及した。「生涯をかけて弁償できる額だと思いますか」。男は一度、本音を漏らした。「無理です」しらふでいるのがつまらなかった――友人から勧められ大麻を始め、MDMAにまで手を出した20代の男 留置所で気付いた「普通の幸せのありがたさ」〈かごしま法廷傍聴記〉
小柄で白髪交じりの痩せ型。建設機器関連会社の経理責任者だった。10年以上前、経営難に陥り民事再生の適用を申請した時期に重責を任され、裁判所への書類作成など慣れない業務に追われた。上司に相談しても「分からない」と丸投げされ、ストレスがたまった。
「うさ晴らししたい」。悪い考えが働いた。経理課は自分と同僚女性の2人だけ。取引先への支払いを装い、女性に現金を引き出させて金庫に保管。退社時に持って帰り、妻や娘にばれないよう押し入れに隠した。
初めは数カ月に1回、10万~20万円程度。「どうせ会社はなくなる」。自分に言い訳をするうち、やめられなくなった。1回で500万円以上を着服するほど罪の意識は薄れていった。
金の大半はブランド品の購入や車の改造、投資に消えた。「買い物をすればそのときは楽しかった」。ぬれ手で粟(あわ)の巨額の浪費。むなしさが募り、また着服を繰り返した。
なぜばれなかったのか。男は入出金の報告義務がなかったなどとし、会社側のチェックの甘さをひとごとのように説明した。「あなたへの信頼ではないのか」。検察官からの問いに、「それはそうだと思います」とばつが悪そうに答えた。
悪事が明るみに出たのは他県の同業他社と合併した際の社内調査だ。被害届が出され、解雇された男は弁護人に相談。ブランド品の売却金で弁償を進めていくことを確認した。
だが、それもつかの間だった。「私との約束を破りましたよね」。弁護人は怒りをにじませた。
発覚から逮捕までの3年の間、男は売却金を生活費に充て、弁護人に黙って買い物もしていた。再就職してもいずれ逮捕され、就職先に迷惑をかける。だから、働けない-。そんな理屈を説明し、「生活水準を急には下げられなかった」と小さな声で反論した。
「1円でも多く弁償に努めたい」。男はそう繰り返し、早期の社会復帰にこだわった。「みんなが汗水たらして稼いだ金を全部使った。信頼してくれた上司や同僚、取引先に申し訳ない。本当に申し訳ない」
求刑から3週間後。懲役9年の求刑に対し、判決は懲役7年だった。社会復帰後に弁償に努める意思があることを考慮された。ただ家族や親族からは絶縁され、出所後に頼れる身内がいるかは分からない。
罪を受け入れたのか。吹っ切れたのか。男は小さくうなずき、傍聴席を一切見ることなく法廷を後にした。