生成AIの驚異的な進歩は、スクリーン上の景色と現実とをますます乖離させているようだ。急速にAIが浸透した韓国社会では今、本物との区別ができないコンテンツが現実世界に侵入し大きな混乱を生んでいる。香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が、生成AIという「諸刃の剣」に翻弄される韓国の実態を分析した。女神の様子を動画で見る【記事内】
彼女はただ、スタンドでため息をつき、顔をそむけて座っていただけだった。
1500万人の見知らぬ誰かが実在しない彼女に恋をするその瞬間さえ、あり得ないほど、平然と。
投稿された多くの画像に添えられたキャプションには、彼女は「平均的な韓国人女性」とあった。虜になった人々は彼女を「球場の女神」と称し、インターネット特有の執拗な眼差しで、彼女の顔立ちの1つ1つを解剖するかのように分析した。その間も、彼女を映した5秒のクリップは韓国のオンラインコミュニティ全体に拡散していった。
そのなかで、スコア表示の違和感を指摘する声が上がった。
画面左上のスコア表示には、ハンファ・イーグルスの現役投手と、すでに引退したはずのドゥサン・ベアーズの打者の対戦が表示されていた。あり得ない組み合わせだった。
「女神」は、生成AIが作り出したフィクションだった。多くの人が、アルゴリズムが継ぎ合わせただけの幻を虚構だと判別できなかった。
それから数日。SNS上には、模倣動画が溢れはじめた。スタジアムに座るBTSメンバーのジョングクの隣に自分たちを合成する者もいれば、架空の観客をF1のパドックやNBAの観客席内に合成する者もいた。人々は、そこにいないはずの「存在」を機械のように次々と生み出していった。
当初は目新しさのあった生成AIが、ありふれたツールとして急速に広がった韓国。韓国社会は今、上記のようなAI画像・動画がいかに早く現実へと置き換わり、単なる娯楽が誤情報、名誉棄損、プロパガンダ、政治的混乱へと転用され得る可能性にさらされている。