第2次大戦後、国際社会は戦争犯罪や人道に対する罪を巡り、国家指導者や軍幹部をどこまで裁いてきたのだろうか。近年はロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)に注目が集まる。【写真】ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか? 机上演習の衝撃的な中身
一方で、ICCには逮捕を強制する執行力がなく、「国際的正義」への疑問や失望も広がる。だが、国家指導者らの責任追及がなかった過去を振り返れば、戦後80年の国際社会が積み重ねてきた努力は小さくない。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ元英国代表のスティーブ・クロウショー氏は2025年、「権力者を訴追する―戦争犯罪と国際法廷の闘い」を出版し、権力者訴追の歴史を描いた。日本語版(三浦元博訳、白水社)の出版にあわせ、4月に来日したクロウショー氏に国際刑事司法の歩みや限界、可能性を聞いた。(共同通信=平野雄吾)
▽逮捕状があれば何が起きるか分からない
ICCは国家ではなく、戦争犯罪や人道に対する罪、ジェノサイドを犯した個人を処罰するため、2002年に世界で初めて常設された国際的な刑事裁判所だ。1990年代にユーゴスラビアの内戦やアフリカ・ルワンダの虐殺に対し、それぞれ国連安全保障理事会が特別法廷を設置、常設裁判所設立の機運を高めた。
―ICCは2023年、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、プーチン氏に戦争犯罪で逮捕状を出したほか、パレスチナ自治区ガザの戦闘では2024年、ネタニヤフ氏に戦争犯罪や人道に対する罪で逮捕状を発付しました。しかし、実効性が伴わないことで失望も広がっています。どう捉えていますか。
「ICCには、執行力のある警察組織がなく、逮捕できないことに失望が広がるのは理解できます。ただ、2点指摘したいと思います。一つは権力者への圧力は一般的に考えられているよりも大きいということです。
例えば、プーチン氏は2023年8月に南アフリカで開催された新興5カ国(BRICS)首脳会議を欠席せざるを得ませんでした。逮捕される懸念があったためです。
ネタニヤフ氏も2025年の訪米時に、逮捕される危険性を避け飛行ルートを変更(緊急着陸時に逮捕されるのを避けるため、欧州の大半の空域を回避)しました」
▽旧ユーゴ元大統領逮捕の衝撃