「個人的な内面と他者の内面に、ここまで1対1で出会うことができるのは、小説特有だと思います」──。【全画像をみる】島本理生が直面した“危うい”小説の威力。ドストエフス キー漬けだった半年間2001年、高校生の時に小説家デビューしてから、直木賞をはじめ数々の文学賞を受賞し、話題作を書き続けてきた島本理生さん。
そんな島本さんは、小説を読むことで何を得てきたのでしょうか? 2026年4月に最新刊『ノスタルジア』を発売したばかりの島本さんにインタビューしました。
小説家
島本理生
1983年生まれ。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞し、デビュー。2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞受賞、2018年に『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。2026年4月に発売した最新刊『ノスタルジア』では、40歳を目前にした女性小説家と、殺人事件を起こした母を持つ20代の青年が共同生活を送るなかで、お互いが抱える「喪失」と向き合っていく姿を描いた。
──最近読んだ本で、おすすめの一冊を教えてください。
2025年後半の半年間、プライベートの読書ではドストエフスキー作品だけを読む、という挑戦をしていました。ドストエフスキーは学生時代、教養として一応、手に取ってはいたんですけど、本気でどっぷり浸って読み深めたことがなかったなと気づいたんです。
ドストエフスキー自身が、もうすこしで死刑執行になるという極限状態に追い込まれた経験もあって、読んでいるうちに、その精神状態と一体化していて、本当に「自分が罪を犯し、明日にも逮捕される」ような精神世界に入り込んでいきました。
ドストエフスキーとだけ向き合っていた半年間はそんな、自分が牢獄から逃げているような、極限の心理状態でした。罪を犯した人間の激しい葛藤に、自分の内面がこれほどまでに迫ることは、実際に犯罪に手を染めない限りはないと思います。異様な体験でした。
読み終える最後の数日間は、「私は明日、生きるか死ぬか」という問いを家の中でも突きつけるので、家族が心配してました。それくらいに1行1行、何度も戻りつつ読み進めました。特に『罪と罰』は、償いと許しのカタルシスがあって、作品としては本当に素晴らしいんです。日常が危うくなるほど、ここまで持っていかれるのは初めてで、小説の威力を再認識した時間でした。「一人の作家にこれほどの力があるのか」と……。ただ本当に、気が変になるかと思いました(笑)。