80年間放置してきた国家的な課題 国家情報局とスパイ防止法がなぜ必要なのか

高市政権は 「インテリジェンス改革」 について、三本柱で検討したうえで実施をめざしている。これらの改革は、 はたしてなぜ必要なのか、日本のインテリジェンス研究の第一人者である小谷賢氏が読み解く。

※本稿は、『Voice』2026年3月号より、より抜粋・編集した内容をお届けします。
高市自民党政権は日本維新の会との合意に基づき、インテリジェンス(情報活動)分野の改革に積極的であると見られている。具体的には、「国家情報局の創設」「スパイ防止法の制定」「対外インテリジェンスの強化」という三本柱からなっており、本稿では、今後実施されるであろうこれらインテリジェンス改革について概観していきたい。

高市政権が最初に着手した国家情報局と国家情報会議の設置は、それぞれ既存の内閣官房内閣情報調査室(内調)と内閣情報会議の格上げによって実現されるので、比較的ハードルが低いと言える。両者を格上げしなければならない理由は、まず内閣情報調査室の情報集約能力を高めるためである。

現状では、各省庁の情報部門(インテリジェンス・コミュニティ)が情報収集・分析を行ない、内調がそれを束ねて官邸に報告することになっている。内調のもっとも重要な任務は、週に二回程度官邸に情報を報告することであるが、そのためにはインテリジェンス・コミュニティの協力が不可欠となる。

ただし、各省庁は重要な情報があれば、内調ではなく直接官邸に情報を届けることが多いので、必ずしもすべての情報が内調に届けられるわけではない。その結果、官邸は雑多な情報で溢れかえり、内調には分析業務に必要な情報が届かないこともある。

このような状況になっているのは、内調の各省庁に対する権限を明確に規定していないためである。1952年に前身の組織が設置された内調は、米国の中央情報庁(CIA)をめざしてつくられた経緯があるが、当時の政治的混乱や世論の反対によって腰砕けとなり、そのとき以来、ほとんど権限が与えられないままとなってきた。

対照的なのは、2014年に内調と同じ内閣官房に設置された国家安全保障局(NSS)であり、こちらは国家安全保障会議設置法によって「内閣官房長官及び関係行政機関の長は、議長の求めに応じて、会議に対し、国家安全保障に関する資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならない」と規定されている。

そのため現状では、NSSのほうがインテリジェンス・コミュニティに対する情報要求が強く働くとも評価できる。つまり、今回の格上げの狙いは、内調にもNSSのように各省庁の情報に対するアクセス権限を与えるため、各コミュニティから内調への情報提供を法的に義務付ける、といった点にある。

また、コミュニティのすべての情報が共有されることになっている内閣情報会議も、同じく曖昧な存在となっている。現状、こちらは官房長官が議長となり、各省庁の次官級の事務方が出席して情報を共有することになっているが、やはり各省庁は情報を出し惜しみすることが多い。そこで総理が出席することで、すべての情報を包み隠さず共有すること、そして各省庁も他省庁の情報を共有してもらうことで、国家的なインテリジェンスが機能していくことが期待されている。

基本的に各省庁は、自分たちの所掌事務のために情報収集を行なっており、国のためという意識は希薄である。たとえば外務省であれば、外務省の政策のため、防衛省・自衛隊であれば、防衛省の政策のための情報収集に専念し、そのなかで使えそうな情報があれば官邸に報告している。

しかし、格上げされた国家情報局や国家情報会議に情報提供するとなれば、最初からそこを意識しなくてはならないので、インテリジェンス活動にも国家観が重要になってくる。さらにいえば、官邸、内閣官房、他省庁すべてに見られる可能性があるのであれば、下手な情報は出せないので、情報収集や分析も高いレベルのものが要求されるようになるのではないだろうか。

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