京都府南丹市の山林で、市立園部小の安達結希(ゆき)さん(11)の遺体が見つかった事件。4月16日未明に養父の優季(ゆうき)容疑者(37)が死体遺棄容疑で逮捕された。捜査関係者の話では、調べに対し、遺体を遺棄したことに加え、殺害を認める供述をしていることも分かった。警察は殺人容疑も視野に入れ、慎重に調べる方針だ。【写真】元捜査員が強い違和感を感じた「完成度の高い」ポスターがこちら■親族に向かいやすい「怒りや不満」
こうした身内による凶行は決して特殊な事例ではない。
実は、日本で検挙される殺人事件の約半数は親族間で起きている。警察庁の刑法犯統計では、2020年は47.1%、21年は46.0%、22年は44.7%。未遂を含む殺人事件全体の検挙件数は減少傾向 だが、親族間の割合は微減で、大きく変わっていない。
なぜ、親族という最も身近なはずの存在が、加害者と被害者に分かれてしまうのか。
東京未来大学の出口保行教授(犯罪心理学)は、「殺人という犯罪は、突発的な通り魔的事象よりも、日常的に接点のある濃密な人間関係の中で生じやすい」と指摘する。
「殺人の動機の約6割は、怒りや不満といった負の感情の蓄積です。人間関係が濃い中で不満やストレスが溜まり、それを一気に晴らそうとする。それが殺人という犯罪の構図です」
京都の事件では、結希さんの遺体に、大きな刺し傷などの「致命傷」は確認されなかった。出口教授は、遺体に目立った外傷がないのであれば、最初から明確な殺意があった「殺人」ではなく、暴行がエスカレートした結果の「傷害致死」の可能性も否定できない。何らかの負の感情が、予期せぬ最悪の結果を招いたのかもしれないという。
■見えづらい家庭内の暴力
一方で、密室となる家庭内の異変を周囲が察知することは極めて困難だ。京都府警によると、結希さんが虐待や暴行を受けたとの相談は、府警や児童相談所にもなかったという。
ただ、18年には東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)、19年には千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん(当時10)がいずれも虐待で亡くなり、両親が逮捕された。
虐待やDVが見過ごされる背景には、何があるのか。
「一般論として、家庭内の暴力が発覚しにくいのは、腹部や背中など、服で隠れる場所に傷をつくるケースがあるためです。ただ、学校の健康診断などがある小学生の場合、身体的な異変は比較的見つかりやすい。それでも防げないのは、暴力が目立たない形で行われているか、あるいはパターン化できない多様な事情があるからです」(出口教授)
■「義理」かどうかは「関係ない」
また、結希さんと優季容疑者は義理の親子という関係性だった。SNSでは「また義理の親子か」「やっぱり」といった偏見的な投稿もみられる。血縁の有無が、犯罪の引き金となるリスクはあるのか。出口教授は「まったくない」と強調する。
「実の子であっても不満が長年蓄積して事件になることはいくらでもあります。関係性よりも、その中身にどのような負の感情が潜んでいるかが問題なのです」
家庭内で起きる「見えない悲劇」。これを防ぐにはどうすればいいのか。
出口教授は、「小さな違和感に気づく力」と「関与する姿勢」の重要性を説く。
「家庭内にたまった憤懣(ふんまん)や不満は、なかなか外に出ていきません。だからこそ、外の人間が気づいてあげて、『どうした?』と一声かけるだけで、すっきりすることはたくさんあります。気づいてくれる人がいる、社会が支えてくれているという実感が持てれば、行動が止まることはいくらでもあります」
そのうえで、現代社会の構造的な問題を指摘する。
「いま、人への関心が希薄になっています。地域コミュニティをどう作り直すかという問題は今回のような家族間の事件だけでなく、あらゆる犯罪の抑止につながっていきます。関係性をいかに密にしていくかが、いま最も求められていることです」
(AERA編集部・野村昌二)