「ハラスメントは心に大きな傷を残します。特に性暴力の被害者の中には、自分が自分ではないような感覚に陥り、感情が乏しくなる場合も。また、現実感が希薄になり『ぼーっとしている』と思われることもあるのです。他にも多くの弊害が表出し、人間関係に影を落とすことがあります」こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。【マンガ】「お醤油買ってくる」と家を出たツマが帰ってこない。夫が知らなかったこと山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのもとに相談にきたのは、不動産関連会社を経営する寛治さん65歳の(仮名)だ。40歳の娘は非常勤の養護教諭をつとめている。寛治さんが調査を依頼してきたのは、上場会社に勤務する42歳の娘の夫のこと。娘は14年前に職場で性暴力に遭っており、それも大きく影響していることが窺える案件だ。彼女の心のケアも必要だと思いながら、まずは現状を知るために調査に入った。
2026年4月上旬、大手新聞社で10年前に社内でセクシャルハラスメントがあったという発表がされました。しかし中を見ると、タクシーの中で当時の役員から若手社員が体を触られキスをされたというもの。「セクハラ」といいますが、これは軽い問題なのでしょうか。パワーバランスが上の人からの不同意による性暴力です。
寛治さんの娘の場合は、14年前に勤務先の小学校で、児童の父親から「相談がある」と切り出され、教室で話していたところ、抱きつかれてキスをされました。そこから恐怖で学校に行けなくなりましたが、「被害者にも非がある」「受け流すのが大人の対応」という社会だったため、娘は孤立し二次被害を受け退職していたのです。当時、寛治さんの妻は自宅でがんの緩和ケアを受けており、娘は仕事をやめてその介護に専念をしていました。
寛治さんの妻が天国に旅立ってもなお、娘は仕事にも出ず実家でひきこもりのような状態になっていました。「きょうだいもいないし、このままでは一人になってしまう」と恐れた寛治さんは、5年前に娘に見合いをさせ、強引に結婚させました。すぐに孫娘も授かり、4年前に孫娘が誕生します。寛治さんは順調に生活していると感じていました。
ところが、娘が産後実家に戻ってきて、どうやら順調ではないことが見えてきました。娘は「泣き声がうるさいと怒られそうだから」と半年も帰らなかったのです。
娘は性暴力を受けたときの心の傷からか、感情をきちんと出して交渉をすることができずにいました。娘の夫はそんな娘に寄り添うどころか、専業主婦であっても生活費は7万円だけ、一緒に出掛けることもほぼなく、冷え切った家族だったのです。セクハラの被害者がさらにモラハラや経済DVを受けていたのです。
そんな中、娘が特殊詐欺に騙されて、200万円を振り込んでしまうという事件が起こります。警察を偽る男から「ご主人が痴漢で逮捕された」と連絡があり、相手の言う通りに家族のもしものためにと、娘夫婦が100万円ずつ出し用意していたお金を振り込んでしまったのです。これに夫は激怒し、娘を罵倒し、暴力も振るいます。家を出た後、「もう一緒に暮らせない。離婚しよう。俺を探すな」と一方的に送ってきました。
寛治さんはこの状況を看過できず、娘の夫がここまで早く家を出たということは「行く場所」つまり浮気相手の家があるはずだと考えたのです。