薬物、窃盗、詐欺、殺人……。事件発生の瞬間はセンセーショナルだ。加害者が逮捕され、事件の詳細が判明すれば、誰もが心理学者や社会学者のように語り始める。判決が下れば、量刑が軽すぎる、重すぎると盛り上がる。
一方で、私たちはその後加害者がどうなるのかをあまり知らない。極刑でない限り、刑務所に入ってもいずれ出所して、社会に戻るはずだ。
彼らはその後、どこへ行くのか。過去に過ちを犯したある男性の人生をたどることで、その行き先が見えてきた。【写真を見る】一見普通の住居のようだが、廊下の奥からは防犯カメラがまっすぐ玄関を狙っていた
■サステナブルとは言えないビジネス「自立準備ホーム」
玄関には、男性物の靴が2段になったラックに並べられている。どこにでもある民家のようだった。どこか懐かしく、まるで実家に帰ってきたように肌なじみのよい空気を感じる。
玄関の上がり框から、この施設を運営する千葉龍一さんが笑顔で迎え入れてくれた。
東京都内、中心部から離れた場所にあるこの一軒家は、千葉さんが運営する「自立準備ホーム」の1つだ。4LDKの家には、現在数名の男性が暮らしている。
「自立準備ホーム」とは、法務省からの委託により運営される住居支援施設で、刑務所や少年院を出所後、戻るあてのない人の生活立て直しを一時的に支えることを目的としている。つまりこの家に住んでいるのは、何らかの罪を犯して収監され、刑期を終えて出所した男性たちだ。
民家のように見えても、扉や壁には「ドアは優しくしめましょう」「節電を心がけましょう」など、共同生活ならではの注意事項が貼られている。廊下の突き当たりからは、防犯カメラがまっすぐ玄関を狙っていた。
千葉さんは2018年に株式会社生き直しを設立、現在は3棟の自立準備ホームを運営している。うち1棟は女性寮だ。
法務省からの委託費は入居者1人につき1日5300円。その中には食費、光熱費などが含まれる。入所者からは1円も受け取っていない。設備が壊れれば、自費で修理や買い替えをするしかない。
対して、仕事内容は決して楽とは言えない。出所してきたばかりの入所者の住民票移動の手続き、携帯電話の契約、仕事探しや家探しのサポートなど多岐にわたる。そのうえ保護観察所からの出所者受け入れ要請は、いつも急にやってくる。