有力容疑者「路上で見つかったのはボロボロの女性遺体」29歳の男性を逮捕したけれど…警察とマスコミの暴走で38年投獄された“獣と呼ばれた男”の悲劇(昭和61年・海外)

路上で発見された、無残に傷つけられた21歳女性の遺体。警察は29歳の地元男性を逮捕し、マスコミは彼を「怪物」と名指しした。だが物証は乏しく、自白も揺れ動く。恐怖と焦りに包まれた1980年代イギリスで、捜査と報道はどこで道を誤ったのか。38年後に明らかになる“冤罪”の始まりを追う。新刊『 世界で起きた恐怖の冤罪ミステリー35 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編を読む )【変わりすぎ…】髪の毛はなくなり、ひげボーボーに…「無実の罪」で38年投獄された男【ー衝撃画像ー】◆◆◆
1986年8月2日、イギリスの北西部、マージーサイド州ビルケンヘッドの静かな住宅街で、21歳の女性ダイアン・シンダルが殺害された。家族経営の花屋で働く傍らホテルでバーテンダーとしてアルバイトをしていた彼女は結婚を控え、貯金に励む真面目な性格だった。

 8月1日23時45分ごろ、ホテルのシフトを終えた後、青いバンで帰宅するはずだったところ、車がガソリンを切らしガソリンスタンドに向かったのが最後の目撃情報で、翌朝2日未明、ビルケンヘッドのボロー・ロード沿いの路地裏で半裸の遺体となって発見される。

 頭部に複数にわたり鈍器で打撃を受け、頭蓋骨は骨折し、顔面に深い裂傷。胸部と生殖器部に複数の刺し傷があり、乳房と陰部が残虐に切断・損傷されていた。死因は頭部への打撃による脳出血で、性的暴行を受けた痕跡があることも判明。

 近隣住民から、午前0時30分から2時ごろに叫び声と男女の口論を聞いたとの証言も得られた。

 1980年代のイギリスはヨークシャー・リッパー事件(1975〜1980年、ヨークシャー地区で売春婦13人が殺害された事件。1981年、当時34歳の男性ピーター・サトクリフが逮捕され終身刑に処された)余波で、女性に対する性犯罪が極端に恐れられていた時期。この残虐極まる事件も地元住民に恐怖を植え付け、特に女性たちの間で職場への送り迎え、外出自粛の動きが広がった。
マージーサイド警察はビルケンヘッドの全男性3千人を事情聴取し、9月23日に地元労働者のピーター・サリバン(当時29歳)を逮捕する。

 きっかけは、事件翌日、犯行現場の近くの森で発生した小さな火事でダイアンの衣服の一部が見つかり、通りかかったカップルが茂みからサリバンによく似た男が走って逃げ去るのを目撃、警察に通報したことだった。

 ただし、彼らは警察が用意した複数の写真からサリバンを指し示すことができなかったという。

 取り調べでサリバンは8月1日から2日の行動について矛盾する供述を繰り返し、最初は友人宅にいたと主張したが、次第に記憶が曖昧になり、取り調べの最中、涙を流して「自分が犯人だ」と自白。しかし、これはすぐに撤回され、再び自白を繰り返すという不安定な経過をたどった。

 重要なのは、逮捕当初、警察が「捜査の妨げになる」としてサリバンに弁護士の立ち会いを許さなかったことだ。結果、彼は孤立無援の状態で自供に追い込まれたのだが、9月25日、ようやく弁護士を付け、全ての自白を「作り話だった」と撤回。

 それでも、警察は彼を有力容疑者と位置づけ裁判に持ち込んだ。ちなみに、当時のマスコミはサリバンに「ビルケンヘッドの獣」「マージー・リッパー」というあだ名を付け、世間の恐怖を煽りに煽った。

《冤罪の補償金はいくら?》警察とマスコミの手で“凶悪殺人犯”に仕立て上げられた29歳男性のその後の人生「38年間を無駄にしたが…」(昭和61年・海外) へ続く

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