「なぜ人を殺してはいけないか」服役中に取り組んだ“哲学対話” きっかけは友人から差し入れられた1冊

哲学的なテーマを日常の言葉で考え、話し合う「哲学対話」が静かな広がりをみせている。実践者であり、作家・哲学者の永井玲衣さんが2021年に出版した「水中の哲学者たち」は5万部を超えるヒットを記録し、対話は学校や企業でも開かれている。難解な概念や格言ではなく、自分たちの言葉で考えを深める。参加者は何に引かれているのか、現場を訪ねた。(中西是登)■作家・哲学者の永井玲衣さん【写真】北九州市小倉北区のリサイクルショップ。会社員や教員、漫画家など職業も関心も異なる20~70代の12人が、この日のテーマ「生きること」について考え、話し、耳を傾け合った。
子育てと仕事に追われる中で思いがけず手にした感動、電気のないオセアニアの村で暮らした経験、障害者の命を軽んじる優生思想、合コンでの失敗談…。議論やディベートではないため、話が脱線してもよい。参加者は対等な関係で、日々の疑問や経験を「問い」として深めていく。

 対話は1時間ほどで終了。ファシリテーターが内容を振り返り、感想を共有する。テーマに対して明確な結論は出ていない。しかし、対話後の参加者たちは一様に満ち足りた表情で、ある女性は「重い話や答えのない話を話せる場があることがうれしい」と語った。
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 <借り物の問いではない、わたしの問い。ささやかで、切実な呼びかけ。そんな問いをもとに、世界に根ざしながら世界を見つめて考えることを、わたしは手のひらサイズの哲学と呼ぶ>

 対話を通した出会いや思考を軽妙に描いた「水中の哲学者たち」で永井さんはそう定義した。大上段に構えるのではなく、日常のものとして哲学を捉える。著作は、哲学対話が広がるきっかけとなった。読者からは「私も考えていいんだと初めて思えました」などという感想が届く。
永井さん自身、大学で哲学対話と出合う前は他者と関わることや考えを伝えることが苦手だった。「自分には将来とか一切ないと思って入った哲学科で、初めて誰もバカにせず話を聞いてくれる風土に出合ったんです。それが今の対話の原風景になっています」

 属性や背景の異なる他者と対話し、問いを深めることは時に強烈な「分からなさ」にぶつかる。しかし、永井さんは「明確な答えがない問いの前で、人々は対等になる。問いを真ん中に置く対話が、人々をつないでくれる」と語る。

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